GERMANY ドイツ/ミュンヘン
photo:Kinderoase and der TUM, Image © Iwan Baan働く女性にとって、仕事と子育ての両立は大きな課題だ。そこで学内の子を持つ若手女性研究者たちを支援しようと、欧州の名門大学、ミュンヘン工科大学(TUM)のキャンパス内に、新しい保育所「キンデロアゼ・アン・デア・TUM」が建設された。決して理想的とは言えない立地だが、土地の制約を逆手に取り、子供たちの好奇心を刺激する独創的な施設が誕生した。
photo: Kinderoase and der TUM, Image © Iwan Baan敷地の狭さを克服!縦に広がる保育施設
「キンデロアゼ・アン・デア・TUM」は60人の子供たちを受け入れることができるキャンパス内の保育所として、今年7月にオープンした。設立の目的は、学術的なキャリアを追求する女性たちを支援することだった。職場の近くで子供を信頼できる手に預け、男性の同僚と同等の機会を得て研究や勉学を続けてもらいたいという支援者の思いが、建設につながった。
敷地となったのは、大学のメインキャンパスとカフェテリアの間に挟まれた旧駐車場。従来の保育園は、安全性のため階段が少なく園庭と自然と一体になりやすい平屋が多いが、周りを建物に囲まれているこの場所では、ワンフロアにすべてを収めることが不可能だった。そこで建物を縦に伸ばすことで、立地上の問題を解決。5階建ての垂直構造を採用し、800㎡の広さを確保した。
設計を担当したのは、2022年にアフリカ人として初めてプリツカー賞を受賞した国際的建築家、フランシス・ケレが設立したケレ・アーキテクチャー。デザインの卓越性はもちろん、社会的コミットメントに重点を置く建築事務所で、今回は利用する子供たちの視点に立って完全に設計したとしている。
photo:Kinderoase and der TUM, Image © Iwan Baan滑り台が各階を結ぶ アイデア溢れる設計
保育所の1階には受付と事務室を配置。子供たちは年齢でグループ分けされ、それぞれのグループが専用のフロアを利用する。中層および上層階には、遊び、スポーツ、食事のための共有スペースが設けられ、最上階には「天空の草地」と呼ばれる屋根付きのテラスが作られた。子供たちは屋上で影や日差しを感じながら駆け回り、街の景色を眺めることもできる。
設計の中心となるコンセプトは、垂直に広がる遊び場だ。各階は滑り台で結ばれ、下の階へ移動すること自体がアクティビティになっている。建物が密集し、交通量も多く騒音にさらされた場所にあるため、この遊び場が背後に位置する静かな部屋を周囲の騒音から遮る防音壁の役目も果たしている。
設計プロセスの一環として、今後は屋上テラスを隣接するカフェテリアの屋根まで拡張し、2つの空間を滑り台でつなぐという提案も出ていた。これにより子供たち、学生、スタッフが共有できる空間が生まれると期待されており、建築事務所側は将来的にこの構想が実現されることを望んでいるという。
シンプルかつハイクオリティ 温かみのある木造建築
建物は、オーストリアで木造建築を専門とするHK Architektenの協力のもと、ほぼ全面が木材で作られている。エネルギー効率、温熱快適性(周囲の温度や環境に対し人が心地よいと感じる状態)、防火安全性、そして音響性能がコンセプトの中心に据えられ、環境にやさしいと同時に、シンプルで品質の高い建物が完成した。「キンデロアゼ」は、素晴らしい設計が敷地のデメリットを魅力に変えた、見事な建築と言えよう。この建物が母親たちの助けになると同時に、子供たちの好奇心を刺激し、彼らに創造的なエネルギーを与える場所となることが期待される。
参考:建築事務所プレスリリース&ホームページ
Webライター
早稲田大学第一文学部卒業。レコード会社に勤務した後に渡米し、コミュニケーション学の修士号取得。米ノースウエスト航空機内誌の編集を経て、日本航空の機内エンターテイメントの選定買付に携わる。夫の転勤で通算9年の東南アジア滞在後、帰国して世界のニュースを紹介するライターに。現在は関西の片隅で、仕事の合間にフランス語学習に奮闘中。
早稲田大学第一文学部卒業。レコード会社に勤務した後に渡米し、コミュニケーション学の修士号取得。米ノースウエスト航空機内誌の編集を経て、日本航空の機内エンターテイメントの選定買付に携わる。夫の転勤で通算9年の東南アジア滞在後、帰国して世界のニュースを紹介するライターに。現在は関西の片隅で、仕事の合間にフランス語学習に奮闘中。



