2026年夏――。うだるような暑さと、混沌とする社会情勢。そんな中、貴重な時間を使って大人が“心を整える”ために訪れたい都内の展覧会3選を紹介する。清涼な一抹の風が吹き抜けるかもしれない。
①【空海と真言の名宝展】33年に一度の秘仏も。密教美術の至宝が東京国立博物館に集結
重要文化財『愛染明王坐像』平安時代・12世紀 山梨・放光寺弘法大師空海の生誕1250年を記念し、東京国立博物館では特別展『空海と真言の名宝』が開かれている。真言宗十八本山と関係寺院に伝わる国宝15件、重要文化財60件を含む寺宝、あわせて88件が一堂に会する、稀有な機会だ。会場を歩き進めるうち、空海が説いた教えが日本各地に浸透し、1200年もの歳月を経てなお受け継がれてきたことが、実感として胸に迫ってくる。

空海の生涯における最大の功績は、中国・唐で体系化された密教を日本へもたらし、根付かせたことにある。その定着の過程で大きな役割を果たしたのが、空海自身も密教の理解に欠かせないと説いた密教美術だ。本展でも十二天屏風や五大尊像といった、大画面かつ極彩色の名品を通して、空海が伝えようとした密教の世界の一端をうかがい知ることができる。
密教の仏たちの姿は、経典の注釈書などによって色や形が細かく定められており、それを正確に伝えるために「図像」と呼ばれる絵画が用いられてきた。別尊雑記や覚禅鈔は、そうした図像を収集・研究した成果として知られる貴重な資料。また唐本曼荼羅図像は、平安から鎌倉・南北朝時代にさかのぼる17点の密教図像のうちの1点で、唐から請来された図像を伝えている。極彩色ではなく白描でありながら、精緻で迫力ある表現も見どころだ。
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②陶芸家ルーシー・リー、優美なうつわの世界。約10年ぶりの回顧展が東京都庭園美術館で開催

20世紀を代表するイギリスの陶芸家、ルーシー・リー(1902-1995)の国内では約10年ぶりとなる回顧展が、東京都庭園美術館にて開催されている。アール・デコ建築の本館の邸宅空間と、リーが生み出した凛とした器の数々が響き合う光景は、ここでしか出合えない唯一無二のもの。実際の展示風景とともに、その見どころをお伝えしたい。
ウィーンからロンドンへ、リーを形づくった芸術家との出会い
ルーシー・リーは1902年、裕福なユダヤ系家庭に生まれ、ウィーン工芸美術学校でミヒャエル・ポヴォルニーに陶芸を学ぶ。当時のウィーンでは、生活のあらゆる領域を「総合芸術」として捉え、上質な手仕事と機能美を結びつけようとした「ウィーン工房」の作家たちが活躍。リーもその時代の空気を吸収しながら創作の道を歩みはじめた。1938年、ナチスの迫害を逃れてロンドンへ渡ったリーは、イギリス陶芸界の中心人物バーナード・リーチと出会う。戦時中は生計のため陶製ボタンを制作し、その手伝いに訪れた青年ハンス・コパーとの出会いが、後の作陶活動を大きく後押しすることとなった。
このボタンがことさらに魅力に満ちている。陶製のボタンはリー自身がアトリエで一つひとつ手作業で仕上げたもの。やがて需要が高まると、石膏の型を用いてシンプルな形を量産する工程へと移行する。一方でガラスのボタンは、友人の営む工房で作られたと考えられている。形、色彩ともに、それ自体がまるで貴石のように美しい。
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③ 【レンブラント展】版画の天才がゴヤやピカソに与えた、知られざる影響|国立西洋美術館
レンブラントといえば油彩画家というイメージが強いが、生涯にわたって版画、特にエッチングの制作にも情熱を注いでいる。国立西洋美術館の『版画家レンブラント 挑戦、継承、インパクト』は、「油彩以上に色彩豊か」とも称された版画の魅力を紹介する展覧会だ。アムステルダムのレンブラント・ハウス美術館との共同企画として実現し、約130点の作品が集結している。
レンブラントが制作をはじめた1625年頃、エッチングはちょうど転換期を迎えていた。それまでは、銅板を直接彫り込むエングレーヴィングの代用技法とみなされ、線を規則正しく整えることが良しとされていた。しかし新たにこの技法に挑んだ画家たちは、エッチングならではの自由な表現を追求しはじめる。そしてレンブラントもまた、スケッチのように奔放な線から、陰影に富んだ面的な広がりまで、多彩な線描を駆使して作品を生み出していった。
初期の数年間、彼が最も頻繁にエッチングの題材としたのは、旅回りの楽師や行商人など、社会の周縁に生きた人々だった。これらの作品は技法習得のための習作であり、ジャック・カロを手本にしたと考えられている。当時のヨーロッパでは、こうした人々は忌避の対象とされ、その視線は芸術作品にも投影されがちだった。ただレンブラントの描いた人物像には、明らかな険悪さや侮蔑は読み取りにくく、その解釈をめぐっては今も議論が続いている。






