松たか子主演の映画『ナギダイアリー』は、岡山県奈義町をモデルにした穏やかな町を舞台に、人々の心の再生を描く話題作だ。深田晃司監督との初タッグで見えた映画づくりの魅力、そして「残せているけど残せていない」という印象的な映画観とは。いまだからこそ響く言葉を聞いた。
人はなぜ、映画に心を動かされるのか——。「映画」が我々の心をゆさぶり、震わせるのは、そこに宿る熱量、つまりは“想いの強さ”なのかもしれない。たくさんの人の想いが重なって紡がれる映画というメディア。そこにどんな“チカラ”が宿っているのか、一緒に見ていこう。
『心を動かす、 映画のチカラ』
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モデルとなった町に長期滞在し、描いた物語
劇作家・平田オリザの代表作「東京ノート」からの着想をもとに、深田晃司監督が脚本を執筆した『ナギダイアリー』。戯曲に宿る精神を継承し、岡山県奈義町をモデルとした架空の町「ナギ」を舞台にした新たな物語を完成させた。
「深田晃司監督が実際に、奈義町で長期滞在を重ねて、町の方々との交流を深めながら書いた物語。舞台となる土地でキャストのみなさんとともに生活を描く作品に、とても惹かれたんです」
松が演じるのは、山奥で彫刻に打ち込み暮らす寄子。友情にも似た関係を続ける弟の元妻・友梨との再会を機に、周りを取り巻く人たちの生活を少しずつ前に進めていく。豊かな自然と人の生活が地続きで存在する、穏やかで懐の深い奈義町を投影したような、ある意味〝主人公らしくない〟鷹揚さが、本作全体を心地よく包み込む。
「石橋静河ちゃん演じる友梨さんの物語という印象がありました。ナギで過ごした時間と、出会った人たちを通して、彼女の心がちょっと変わっていくお話。私は風景のひとつとして、寄子を演じることでいいのかなと。奈義では、静河ちゃんと隣同士のコテージで暮らしていました。『寒い夜はどうやって寝てる?』なんて話しながら、彼女と生活を送ったことが、自然な会話劇に生きたと思います」
海外スタッフも起用し、多様な目線を取り入れた
社会の片隅で葛藤する人々とその眼差しを捉える繊細な人物描写を行う深田監督。本作で初めて創作をともにした松は、そんな深田作品の魅力の一端を体験する。
「東京と奈義でていねいに準備を重ねる中で、作品に対する譲らない思いを深田監督から感じました。ですが、俳優のお芝居を決して否定することはありませんでした。本作は編集にフランスのスタッフを入れるなど、いろいろな人の目線を取り入れながら完成に持っていくかたちを取っています。そんな監督の寛容さが、国内外を問わず多くの人に届く理由のひとつだろうと感じました」
多くの監督と名作を生み出し、感動を残してきた松にとって、映画とはどんな存在なのか。「残せているけど残せていない切なさもある」と、気になる言葉を紡ぐ。
「映画ってお芝居が何十年と残る媒体ですよね。私は舞台にも立つのですが、こちらは演じたそばから消えてしまいます。自分にとっては映画も同じなんです。OKテイクに至るまでの掛け合いや空気といった〝残らないもの〟の中で演じている感覚があって。その中で撮影されたシーンを観ると不思議な気持ちになりつつも、自分が役を全うしたことに喜びを感じて、監督を、出演者を、観客を信じて作品を世に送り出すつくり手全員の強い思いに心が動かされます」
観る者はきっと、制作に関わる人々に訪れた最高の一瞬を凝縮する映画に惹かれるのだ。
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