【Netflix映画づくりのキーマンに聞く】『This is I』『新幹線大爆破』『シティーハンター』はどう生まれた? ヒット作を生む企画と制作の舞台裏

  • 文:力石恒元(S/T/D/Y)
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『新幹線大爆破』『シティーハンター』『浅草キッド』など、近年の話題作を次々と送り出すNetflix。世界配信によって日本映画の可能性が広がるなか、どのような視点で企画を選び、作品をかたちにしているのか。Netflixコンテンツ部門所属・佐藤善宏に、ヒット作を生み出す発想法と制作環境、日本映画のこれからを聞いた。

人はなぜ、映画に心を動かされるのか——。「映画」が我々の心をゆさぶり、震わせるのは、そこに宿る熱量、つまりは“想いの強さ”なのかもしれない。たくさんの人の想いが重なって紡がれる映画というメディア。そこにどんな“チカラ”が宿っているのか、一緒に見ていこう。


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佐藤 善宏(さとう・よしひろ)Netflixコンテンツ部門マネージャー●2021年、Netflixに入社。テレビドラマのプロデュースからキャリアをスタートし、前職では東宝映画企画部に所属。近年は「忍びの家 House of Ninjas」(24)や映画『新幹線大爆破』(25)、「ガス人間」(26)など話題作のプロデュースに携わる。

いま描くべき物語を、最適なフォーマットと最高の環境でつくる

日本のコンテンツは近年、配信サービスを介して世界中に広がっている。SNSで評判が行き交い、撮影地で聖地巡礼が行われるなど、作品の届き方も変化してきた。その一翼を担うのがNetflixだ。既存作品の配信だけでなく、オリジナル映画の制作も盛んに行う。シリーズやドキュメンタリー、リアリティショーなどのアンスクリプテッド、そしてアニメなど多様な映像作品を手掛けるなかで、映画をどう位置づけているのか。コンテンツ部門所属の佐藤善宏は、映画を「2時間前後の尺に凝縮した物語」と捉える。その上で、「いちばん大事にしているのは、日本の視聴者」と言い切る。

「作品を世界に届けることは、配信サービスとしての使命ですが、日本のお客様に楽しんでもらうことが第一優先という意識はずっと変わりません。日本でヒットする作品をつくり、結果として世界の方々にも観ていただくことが理想です。そのために企画段階で大切にしているのは、まず根源的な人間ドラマがあること。そこに、いまだからこそ描ける題材であるか、さらに映像表現や語り口に新しい挑戦があるかを考えます」

作品の種は、いろいろな方法で集まってくる。クリエイティブチームがニュースや原作をもとに企画を育むことはもちろん、外部の監督から脚本というかたちで持ち込まれることもある。その種を映画として花咲かせるか決めるのは、実はしばらく後の話だ。

「企画者がやりたいことをうかがいながら、その題材や物語をいちばんよいかたちで届けるために、ドラマシリーズまたは映画で描くのか、ベストなフォーマットを探ります。たとえば、鈴木おさむさんが企画した、はるな愛さんの半生を描く物語『This is I』は、最初ドラマシリーズを想定して持ち込まれた作品でした。松本優作監督と鈴木さんとともに対話していくうちに、たぐいまれなる人生を一気に見せたほうがいいとなり、映画というフォーマットで描くことにしたんです」

このような話し合いのなかで、作品がさらによくなる可能性を見つけるため、色設計や音響、カメラの種類に至るまで、技術チームも含めて議論を重ねる。映画館のような強制力が働かない、離脱可能な配信だからこそ、視聴者を長く惹きつけ、作品の世界観に入ってもらうことを強く意識する。つくり手がやりたいことと、視聴者を惹きつけることを叶える手段として、技術的新規性を追求するのだ。

1975年公開の特撮映画をリブートした、2025年の『新幹線大爆破』は、「ここで起きるすべての音を聴いてもらいたい」という樋口真嗣監督の思いから、最高品質のサラウンドシステム「ドルビーアトモス」を採用し、音響設計にもこだわり抜いた。

「映画の価値を高める要素として、新しい技術は欠かせません。イヤホンやサウンドバーなどホームエンターテインメントの質が上がり、視聴環境も日々向上しています。楽しみ方に幅があるとして、その上限ぎりぎりまで享受できる作品がラインアップされているのが、Netflix映画の大きな特徴といえます」

そして作品は公開と同時に世界中の視聴者と出合う。『新幹線大爆破』では、海外の視聴者が旧作や日本の特撮映画史へ関心を広げる反応もあった。視聴数やランキングだけでなく、SNS上の会話、ロケ地への関心、過去作や関連文化への波及。作品が届いた先の経済的・文化的な広がりは「Netflixエフェクト」と呼ばれており、重要な指標となっている。

Netflixがつくり上げた、“挑戦できる土壌”

これらのていねいな作品づくりは、Netflixが大事にするクリエイターズ・ファーストという考えによる。佐藤がこの理念を改めて強く意識したのが、ビートたけしの芸人人生を描く同名小説を映像化した『浅草キッド』だ。

「知名度の高いビートたけしさんを主人公に置いていますが、作品のテイストは、劇場映画であれば視聴者が限られると思われる時代モノですし、監督・脚本を務めた劇団ひとりさんは映画監督として経験値を積んでいたわけではありません。でも、Netflixは『素晴らしい物語・脚本・演出プランかどうか』『いま伝えるべきテーマかどうか』を突き詰めることが優先され、ジャンルやつくり手のキャリアに関係なく挑戦できる土壌がある。『浅草キッド』以降、映画業界が本当はやりたいけれどさまざまな理由で諦めていた企画も『Netflixだったらやれるかも』と思ってもらえる期待値を醸成してきた感覚があります。その自由度が魅力だと思いますし、これからもつくり手と一緒に進化していきたいです」

クリエイターズ・ファーストの考えは、もちろん撮影現場にも及ぶ。出演者やスタッフが安心して仕事ができる環境づくりもそのひとつだ。すべての人に尊敬を払って接するための「リスペクトトレーニング」を制作作品すべての撮影前に実施。肌の露出や接触があるシーンでは俳優の尊厳と安全を守るインティマシーコーディネーターも男女ともに導入している。

「近年では特に映画『シティーハンター』で、表現者の心に配慮しながら、よりよいシーンを撮影するための取り組みを行いました」

日本の視聴者に届く物語を映画として凝縮し、配信によって世界へ開く。佐藤が目指すのは「これはNetflix映画だ」と感じてもらえるような特色ある作品を並べていくこと。日本映画のひとつの未来を示すNetflixの作品づくりから、これからも目が離せない。

Netflix映画の特徴を表す、近年の4作品

1.『浅草キッド』:物語の力を信じ、挑戦できる土壌を育む

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『浅草キッド』 2021年 Netflixにて独占配信中 監督・脚本/劇団ひとり 出演/大泉 洋、柳楽優弥ほか 2時間03分

 ビートたけしの下積み時代を描く同名小説を映画化。芸人を夢見るタケシと浅草の伝説的な芸人・深見千三郎との師弟の日々を描く。時代モノに加え劇団ひとりが監督・脚本を務めるなど、劇場映画ではハードルになり得る企画だったが、物語の力を信じて企画を実現。配信後は大きな反響を呼び、Netflixにおける日本発映画づくりの転機となった。

2.『シティーハンター』:安心して撮影に臨める、互いを尊重した現場づくり

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『シティーハンター』 2024年 Netflixにて独占配信中 監督/佐藤祐市 脚本/三嶋龍朗  出演/鈴木亮平、森田望智ほか 1時間44分 ©北条司/コアミックス 1985

北条司の人気漫画を実写映画化。冴羽獠が相棒・槇村香とともに新宿を舞台に事件へ挑む。Netflixでは全作品で出演者やスタッフが互いを尊重するためのリスペクトトレーニングを実施。本作ではさらにインティマシーコーディネーターが参加。肌の露出や接触を伴うシーンで男性俳優の尊厳と安全にも配慮し撮影された。2027年に続編が配信予定。

3.『新幹線大爆破』:世界配信で、日本映画の文脈を広げる

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『新幹線大爆破』 2025年 Netflixにて独占配信中 監督/樋口真嗣 脚本/中川和博、大庭功睦 出演/草彅 剛、細田佳央太、のんほか 2時間17分

1975年公開の同名映画を、樋口真嗣監督がリブートした作品。時速100㎞を下回ると爆発する新幹線を舞台に、極限の状況が次々と繰り広げられる。世界配信後は、海外の視聴者が旧作や日本の特撮映画史へ関心を広げるなど、Netflixエフェクトを生んだ。配信初週に世界80の国と地域でトップ10入りし、非英語映画の世界2位を記録した。

4.『This is I』:物語を届けるために、最適な尺を設計する

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『This is I』 2026年 Netflixにて独占配信中監督/松本優作 脚本/山浦雅大 出演/望月春希、斎藤 工ほか 2時間10分 ©Kim Jeongwan/Netflix

はるな愛の半生をもとに、アイドルを夢見る少年・ケンジが、形成外科医・和田耕治と出会い、自分らしく生きる道を切り拓く姿を描く。企画当初はドラマシリーズとして持ち込まれたが、松本優作監督と鈴木おさむを中心に対話を重ね、一代記として凝縮して描くため映画へ変更。作品ごとに映画かシリーズかを検討し、最適な尺を設計した一例だ。

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