鄭州/中国
どこまで歩いても終わりが見えない――。そんな錯覚を覚えるほど長く伸びる空中回廊を有する建築物が、2026年6月、中国・河南省鄭州市に完成した。「華中国際コンベンション・展示センター(第2期)(Central China International Convention and Exhibition Centre (Phase 2))」である。
約1.7kmにわたる高架の歩行空間は、16の展示ホールと会議センター、275室のホテルを一本の軸で結び、巨大な展示都市をひと続きの空間として機能させる。総敷地面積は約70万㎡。中国中部の新たな国際展示・会議拠点として整備されたこの施設は、建物そのものではなく「歩く体験」を建築の中心に据えたプロジェクトと言えるだろう。
建物ではなく「移動」をデザインする
計画地は、鄭州新鄭国際空港に隣接する鄭州航空港経済総合実験区。中国政府が物流や産業の集積を進める国家レベルの開発エリアであり、大規模な見本市や国際会議を受け入れるための中核施設として整備された。
この施設の最大の特徴は、長い空中回廊である。
一般的な展示会場では、展示ホールが点在し、来場者は屋外や別棟を移動しながら目的地へ向かう。しかしここでは、高架デッキがすべての主要施設を連続的につなぎ、来場者は天候に左右されることなく快適に施設間を移動できる。
回廊は上下2層構成となっていることも特筆すべき点だ。展示を巡る来場者と、飲食や商業施設へ向かう人々の流れを分けることで、大規模イベントでもスムーズに移動できる。移動そのものを快適な体験へと変えるインフラが、この建築の主役なのである。
地域の風景を映す大屋根
施設全体を覆うのは、波打つような曲線を描く大屋根である。
これは黄河の流れや嵩山(すうざん)の稜線といった河南省の自然景観から着想を得たものだ。緩やかな曲線を描くキャノピーが展示ホール群を視覚的にまとめ上げ、ランドマークとしての存在感を生み出している。
また巨大施設を効率よく建設するため、構造や部材にはモジュール化・標準化の考え方を取り入れ、限られた工期の中でも施工効率を高めた。各標準展示ホールは約1万2500㎡の展示面積を備え、広い無柱空間を確保することで多様な展示やイベントに対応できる柔軟性を実現している。自然光を積極的に取り入れた明るい内部空間も、来場者の滞在環境に配慮した設計の一つである。
ハイテクだけではない、人を中心に据えた巨大建築
設計を手がけたのは、イギリスの建築設計事務所RSHP(旧Richard Rogers Partnership)だ。パリのポンピドゥー・センターやロンドンのロイズ・ビルを手がけたリチャード・ロジャースが創設した事務所で、構造を建築表現として取り込むデザインで知られる。今回のプロジェクトでも、中国の同済大学建築設計研究院(TJAD)と協働し、巨大な施設でありながら、人が迷わず歩き、自然に回遊できる空間を目指した。
展示施設の規模が拡大する一方で、来場者にとっては「歩きやすさ」が体験の質を左右する重要な要素になりつつある。このコンベンションセンターは、建築を単なる器ではなく、人の流れを組み立てる都市インフラとして捉え直した事例と言える。中国中部における国際展示・交流拠点として、今後の運用と地域への影響が注目される。