Onのレーシングシューズ「Cloudboom Strike」が、第2世代へと進化した。新作「Cloudboom Strike 2」が目指したのは、ただ速く走れるシューズではない。マラソンの後半、疲労が蓄積しても、できるだけペースを落とさず走り続けること。そのために、着地時の衝撃を受け止めながら、次の一歩へ効率よくエネルギーをつなぐ構造を追求した。新技術「CloudTec Sphere」を核に、その実力を探る。
マラソンでは30kmを過ぎたあたりから、疲労によってペースを維持することが難しくなる。Cloudboom Strike 2は、そんなレース終盤でもスピードを維持するために、着地から蹴り出しまでの動きを効率化することに着目した。
その中核となるのが、新技術「CloudTec Sphere」だ。前足部と中足部に設けられたクッショニングチャネルによって、着地時にフォームが多方向へ変形。衝撃を吸収しながら、次の一歩へエネルギーを返す構造になっている。さらにミッドフットには中央の溝を設け、フォームがより効率よく変形するよう設計した。
ミッドソールには「Helion HF」を採用。前モデルから15%軽量化したフォームに、より軽量で剛性の高い湾曲したカーボン製「Speedboard」を組み合わせ、軽快な足運びと前方への推進力を生み出す。
実際に走ってみると、まず印象的なのが柔らかさと反発のバランスだ。着地ではクッションが衝撃を受け止めてくれる一方、足元が沈み込みすぎる感覚はない。そこからスッと次の一歩へ移り、ペースを上げるほどカーボンプレートの剛性感とミッドソールの反発が噛み合ってくる。
この感覚について、Onのランニング部門でグローバル・プロダクト・ストラテジーを担当するルーカス・ケルナー氏は、ユニークなたとえで説明する。
「とても柔らかいソファに身体を沈み込ませると、起き上がるのが大変ですよね。それと同じで、シューズも柔らかすぎるとエネルギーが吸収され、前へ返ってこなくなります」
つまり、ただ柔らかいだけでは速く走れるわけではない。Cloudboom Strike 2では、フォーム、プレート、ミッドソールの形状をひとつのシステムとして設計し、衝撃を受け止める柔らかさと、前へ進むための剛性を両立させている。
その効果は、データでも検証されている。Onはケープタウン大学と共同研究を実施し、トレーニングを積んだランナーを対象にVO2を測定。その結果、LightSpray Cloudboom Strike 2は業界トップクラスのベンチマークシューズと比較して、ランニングエコノミーが平均1.6%向上したという。
ランニングエコノミーとは、一定の速度で走る際に必要となるエネルギーの効率を示す指標。少ないエネルギーで同じペースを維持できれば、長距離を走る際の余力にもつながる。マラソン終盤の走りを考えるうえで、重要な要素だ。
さらに開発では、科学的なデータだけでなく、アスリートの感覚も重視された。ヘレン・オビリをはじめとするトップアスリートとともに、トレーニングキャンプなどで走りを撮影し、ストライドや着地を分析。ケルナー氏も「科学的なデータは重要ですが、それだけでなく、アスリートが実際に履いてどう感じ、どうパフォーマンスを発揮するのかという“感覚”も大切」と語る。
その成果は実戦にも表れている。ヘレン・オビリはロンドン大会で自己ベストを1分48秒、イエマン・クリッパはパリ大会で48秒更新して勝利。主要アスリート6名が自己ベストを大幅に更新しているという。
柔らかいのに沈みすぎず、反発するのに硬すぎない。 Cloudboom Strike 2を実際に履いて感じたのは、その絶妙なバランスだった。軽さやカーボンプレートの推進力だけを武器にするのではなく、着地から蹴り出しまでを効率よくつなぎ、42.195kmの終盤でもスピードを維持する。Cloudboom Strike 2は、「速く走る」だけでなく「最後まで速く走る」ことにフォーカスしたレーシングシューズだ。