リサイクル発想とグラフィックアートがいまの時代にマッチするバッグブランドのフライターグ。Pen Onlineファッション連載「着る/知る」は、1990年代にフライターグ兄弟が生み出したブランドの秘密を探るべく、彼らが拠点にするスイスの最大都市チューリッヒを訪れた。
前・後編でお届けしている今回は、後編<スタイル創造の舞台裏&観光ガイド>。笑顔になるビジュアル表現をするクリエイティブ・ディレクターへのインタビュー、サステナビリティ・マネージャーが語った100%リサイクル可能な製品を掲載。
さらに記事後半には、スイスという国、チューリッヒ観光で知っておきたい情報も。注釈が欠かせない写真にのみキャプションをつけたのは前編と同様だ。さらりと情景を眺めスイスのムードに浸っていただけたらと思う。
フライターグのスイス本社
フライターグ本社は、製造工場と倉庫を兼ねた広大なスペース。チューリッヒの工業地帯にある。





写真最後の人物は、社員食堂で皆が食べたあとのコップを片付ける営業担当のニコラ・パンショー(Nicolas Panchaud)。民主的なフライターグの社風を象徴するひとコマだ。日本ブランドの服が好きな彼が着ているジャケットはFDMTL(ファンダメンタル)。チューリッヒでお薦めのメンズウェアの店を聞いたところ、「日本の人に紹介したい店は少ないんですよ。日本のほうが遥かに凄いですから。こちらにはドーバー・ストリート・マーケットもBEAMSもありませんし。スイス人のお洒落な人は海外で服を買います」とのこと。
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ブランドイメージ戦略

フライターグを愛する人は、彼らが発信するポップなキャンペーンビジュアルにも惹かれているはず。そこには仲間に加わりたくなる大衆的なコミュニティ表現がある。ユーモラスな世界観を統一させ軸をぶらさないようコントロールするには、ただの悪ノリでない洗練された戦略が必要だ。
現クリエイティブ・ディレクターのトーマス・ウェイクフォード(Thomas Wakeford)がその戦略の中心人物。就任したのは2024年11月。彼にまず自身の仕事内容を尋ねた。
「ブランド全体のクリエイティブ・ディレクションを担当しています」
詳細な業務内容はどのようなものだろうか。
「ビジュアルのディレクションと、商品のディレクションを半々の割合で手掛けています。ほかにも業務はいろいろありますが」
ではフライターグの素敵なビジュアルを生み出しているのがトーマスさんで間違いない?
「あ……はい!そうです」
答えに一瞬間があったのは、大勢の人の協力もあることが彼の頭をよぎったからかもしれない。自分一人で作っているのでないことへの想い。トーマスがディレクターに就任した24年以前からフライターグのビジュアルはユーモラスで大衆的だった。彼は社風を受け継ぎつつ次世代へと発展させている。
トーマスによると、まずはバッグありきでビジュアルを考えるそうだ。26年に新作で登場した保冷バッグのときは、モノを冷やす機能性をいかに伝えるかを考えた。
キャッチコピーの「Keep it cool(キープ・イット・クール)」は“冷やしておこう”という意味だが、coolは誰かがミスったとき「いや大丈夫だよ」と慰める言葉でもある。そこでダブルミーニングを狙い、ちょっと間抜けなビジュアルを制作。バーベキューは楽しいはずなのに、男性はとても真剣な表情をしている。「ちゃんと焼かないと!」と堅苦しく頑張っている。そのとき、「『Keep it Cool。大丈夫だよ、落ち着いていこう』との言葉が活きてくる。
さらに男性は屋外でなく室内でバーベキューしているのも“やらかして”いる。実に心優しいチャーミングなビジュアルだ。トーマスは日常風景に常に目を向ける。街を行き交う人々の様子を気に留める。そうした身近なことからアイディアを拾い出す。

上写真はチューリッヒの旗艦店「FREITAG Flagship Store Zürich」の様子。保冷バッグがディスプレイされている。
彼にこれまでの経歴を尋ねた。元はスイス以外の国で活躍するファッションデザイナーだった。
「スイスのジュネーブ出身なのですが、イギリスの『セントラル・セント・マーチンズ 』(※ジョン・ガリアーノやアレキサンダー・マックイーンを輩出した名門校)に通いました。前職はファッションデザイナーだったのです。ヴィクトリア・ベッカムやジェイソン・ウーなどで働いてきました。転機になったのは世界中がパンデミックになったコロナ禍のとき。スイスに戻りドイツで世界最大級のファッション系ECサイトであるZalandoに転職しました。そのときクリエイティブ・ディレクションを手掛けるようになりました。ファッションデザインの経験に、異なる経験が重なった出来事です。その後にフライターグの現職に就任。実に光栄なことです」
2年前にトーマスがクリエイティブ・ディレクターになり、昨年にはCEOも交代している。フライターグは現在、新たなるフェーズへと歩みを進めているのかもしれない。
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完全循環型の新素材バッグ

本社でサステナブル担当者のピーター・ホレンスタイン(Peter Hollenstein)がプレゼンしてくれたのが、本体からパーツに至るまでリサイクルできる単一素材という驚異的なオリジナル製品。


上写真はFREITAG Flagship Store Zürichの一角。解説とともにディスプレイされている。
バッグもスニーカーも服も、再利用が難しい金具や特殊な素材が含まれているのが一般的。しかしこの製品は、パーツから縫製糸まで単一素材。将来的には丸ごとマシンに投げ込むだけで簡単にリサイクルできてしまうかもしれないバッグなのだ。
素材の名称はポリアミド。アパレル業界でよく使われる再生素材は、ペットボトルから採ったポリエステルや、漁網を再利用したナイロン。 同じ石油由来でもポリアミドに目をつけたのは、バッグとしての頑丈さを実現させるため。
新品状態ではまだリサイクル商品ではない。あくまでも“リサイクル可能な”バッグだ。使ったあと回収され再利用されたとき、ようやく真価を発揮するプロダクトである。


役目を終えた貨物コンテナを積み上げたFREITAG Flagship Store Zürich。5層階から上は階段で、トップは展望台でチューリッヒの街を見回せる。最寄り駅のハードブリュッケ駅から徒歩5分、ターミナルのチューリッヒ中央駅からでも約15〜20分で着く。06年に誕生した街のランドマークだ。
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これぞチューリッヒ
ここからはスイス観光の話に移ろう。スイスと言えば……時計、アーミーナイフ、チーズ、アルプスの少女ハイジ!? 秘密遵守のスイス銀行、永世中立国、平均月収100万円のお金持ち、物価高といった国策が頭に浮かぶ人も多いだろう。このセクションでは大都市チューリッヒを象徴するエッセンスにフォーカス。
●観光地の旧市街

昔ながらの街並みが続く旧市街は、ターミナルであるチューリッヒ中央駅から続く広いエリア。石畳は常に修繕され、祭りも定期的に開催。我々がヨーロッパに期待する中世の佇まいが観光客を迎え入れる。芸術家マルク・シャガールのステンドグラスで名高い「フラウミュンスター教会」もこの旧市街にある。
●路面を走る市民の移動手段「トラム」

チューリッヒをはじめて訪れたとき、「空に張り巡らされた電線が美しい景観を損なうなあ」と思ってしまったのだが、その電線はすぐに路面電車のトラム用だと気づいた。チューリッヒ内の移動は後述する鉄道と、トラムでほぼ間に合うようだ。あとは自転車がとても便利。高額なタクシーを住人はほぼ使わないらしい。
乗るときは切符も見せず、ただボタンを押してドアを開け乗り込むだけ。降りるときもそのままドアから出ればOK。むろん事前に切符や、チューリッヒ全土の交通で使い放題の「チューリッヒカード(Zürich Card)」を購入しないといけない。無賃乗車だけはくれぐれもご注意を。
●スイスのシンボル、国鉄

上の列車に書かれた「SBB CFF FFS」が「スイス連邦鉄道(スイス国鉄)」の省略記号。SBBはドイツ語、CFFはフランス語、FFSはイタリア語での頭文字である。これにスイス少数派のロマンシュ語を加えた4カ国後が公用語。ドイツが近いチューリッヒはドイツ語圏(ただし方言化したスイスジャーマン)、フランスが近いジュネーブはフランス語圏である。
乗り込みはトラムと同様に切符(デジタル、紙)を見せず、出入り自由なホームから乗り込む。
驚くべきは到着も出発も、時刻表通りの正確さなこと!スイス人は日本人以上に緻密な仕事をする。日本から訪れた人はこの国(都市)の風土が落ち着けるのではないだろうか。アジア人に嫌な顔をしない国民性も実にありがたい。
●チューリッヒ中央駅


スイスの3つある主要な国際空港のひとつ、チューリッヒ空港から15分ほど電車に乗ると着く巨大ターミナル駅のチューリッヒ中央駅。上写真上段の時計(スイス国鉄のシンボル)がある場所が現地の日本人によると、「渋谷のハチ公前です。ここを目印に皆が集まります」。
●海のごとく広い湖でのレジャー


地図上では縦に細長いチューリッヒ湖が、住人の憩いの場。上写真2点は湖面に浮かべたボートから撮影したもの。ヨットクルーズを愉しむ人々、湖畔のチューリッヒ随一の高級住宅街の様子。訪れた8月末はまだ暑く泳ぐ人も多く、さながらビーチの様相だった。
ここを海とするなら、山も電車ですぐ行けるチューリッヒはアウトドアのアクティビティが詰まった都市。優れたアート作品を扱う美術館もあり、何でも楽しめるのがチューリッヒ観光の要だ。
●街に設置されたリサイクルボックス


ゴミの分別にも熱心なチューリッヒの人々。街中で衣類専用ボックスもあるリサイクルボックスを見つけた。
ボトルは透明、茶色、その他(ドイツ語で緑のグラスと書かれている)にわけられ、金属用のボックスも。街中にゴミが落ちていない清潔なチューリッヒの民度の高さが伺える。

夜に雨が降り止んだとき、鮮やかな虹がスイスの街を飾った。
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海外こそ美術館に行く
観客が少ない、作品に近づける、照明が明るい、写真撮影OKと、海外の美術館のあり方は日本と大きく異なる。作品とゆっくり向き合えるから、旅行の貴重な時間を割いても訪れたくなる。
スイス気分を味わいつつ行く意義のある美術館をチューリッヒ観光局に教えてもらった。その中からふたつの館を紹介。
チューリッヒデザイン美術館(博物館)


チューリッヒ芸術大学の一部である美術館(学外にもある)。常設展ではスイスのデザインを中心に約2,500点を展示。総ストック数は膨大なポスター類を含め約50万点。
歴史的なデザイナーズからポップなオブジェクトまで扱うのがこの館のハイセンスなところ。コンパクトなスペースに(上写真の部屋はその一部)過去から現在までの素晴らしいデザインが凝縮されている。日本でこれほど一気に眺められる館は存在しないだろう。クリエイティブ好きな人は訪れたらワクワクが止まらないはずだ。
ただし建物自体は日本人には馴染みのある現代的な佇まい。古典的なヨーロッパの風情に浸りたい人は、チューリッヒ旅のマストスポットから外れるかもしれない。

チューリッヒ美術館

スイス最大級のアート美術館である「チューリッヒ美術館」。イギリス人建築家デイヴィッド・チッパーフィールド(David Chipperfield)が手掛けた新館と、地下でつながる旧館とで構成されている。

常設展は主にビュールレ財団コレクションから長期貸与されている印象派の時代を中心にしたもの。上写真の額4点だけでも、セザンヌ、ゴッホ、ロートレック……! 歴史的に偉大な作家の絵をたくさん間近に見られる絶好のチャンスだ。


フランスを舞台にした絵画もいいものだが、海外でなにより見たいのは現地出身の芸術家の展示ではないだろうか。必見は彫刻家のアルベルト・ジャコメッティの部屋だ。アルベルト・ジャコメッティ財団からの永久貸与品がずらりと並ぶ。その見せ方もラグジュアリーと呼べるほど美しく整えられている。スイスにおける彼への尊敬心がよくわかる部屋である。
1966年に他界したアルベルト自身の協力もあり秘蔵品まで集まった「世界一のコレクション」の常設部屋は、27年に大幅に拡張される予定。

チューリッヒ内では教会のステンドグラスや警察署の天井絵などに「ジャコメッティ作」と記されたものがある。実はジャコメッティは芸術一家で、これらは画家のオーギュスト・ジャコメッティによるものだ。一家ともに偉大な芸術家だとしても、美術の歴史に輝く彫刻家の作が目当てならアルベルトの名をしっかり覚えておこう。


アート鑑賞を一休みするなら、新館横の建物1階にある「Kunsthaus Bar」で。昼はカフェで夜はバーに姿を変える。レストラン並みの食事を提供するからここを食事処にするのもありだ。
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おわりに

上写真はチョッパーフィールドが設計したチューリッヒ美術館の新館。
前編・後編でお届けした、フライターグを軸にしたスイス・チューリッヒの旅はいかがだっただろうか。この取材はチューリッヒ観光局とフライターグとが共同で日本のメディアを招いたプレスツアー。複数メディアと一緒に巡ることが多く、今後同じ場所の写真やレポートをネット上で見かけるかもしれない。メンズ系ネットメディアでは『HOUYHNHNM(フイナム)』『Hypebeast (ハイプビースト)』が参加している。それぞれが異なる切り口で記事化するはず。得られる情報も多いと思うので、この『Pen Online』と併せてご覧いただき、スイス旅の予定を組んではいかがだろうか。
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https://www.pen-online.jp/article/022281.html

ファッションレポーター/フォトグラファー
明治大学&文化服装学院卒業。文化出版局に新卒入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。退社後はフリーランス。文章書き、写真撮影、スタイリングを行い、ファッション的なモノコトを発信中。
ご相談はkazushi.kazushi.info@gmail.comへ。
明治大学&文化服装学院卒業。文化出版局に新卒入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。退社後はフリーランス。文章書き、写真撮影、スタイリングを行い、ファッション的なモノコトを発信中。
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