【アストンマーティン ヴァンテージ S試乗記】ジェームズ・ボンドはなぜアストンマーティンを選ぶのか? 野生を飼い慣らし、礼節を纏う英国製スポーツカー 第249回東京車日記

  • 写真&文:青木雄介
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アストンマーティン伝統の高性能サフィックス「S」を冠した。

アストンマーティンの「ヴァンテージ S」に乗った。パワーだけでなくスロットルの応答や足まわり、ステアリングを通じた情報の伝わり方まで、ドライバーとの接点がひとつずつ研ぎ直されている。速くなったというだけなら話は簡単。だがこのクルマは “攻めるアストン”の本質をより表す。

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ドライブモードごとに専用スロットルマップを設定し、ペダルの重みと応答を再調整。

 「ヴァンテージ S」はスポーツカーであって、シューティングブレークではない。だが走らせているうちに、このクルマの世界観は狩猟に通じている、と思った。猟銃の操作が重いのは、その扱いが決して軽々しく行われてはいけないからだ。ヴァンテージも速度を増すにつれ、ステアリングに独特の重みが加わる。それは責任を伴う重さとして腕に伝わる。インテリアも同じ匂いがする。青光りする黒染め(ガンブルー)の鋼鉄に、磨き上げた木の銃床を組み合わせる猟銃さながら、キャビンも工芸品のように仕立てられている。オーナーの身体に合わせて誂えるビスポークの哲学は、英国の高級銃器メーカー、ジェームズ・パーディやホーランド&ホーランドが手掛ける特注の猟銃「ロンドン・ガン」にも通じるアストンマーティンのお家芸だ。コクピットは書斎のような落ち着きとガンケースのような乾いた緊張感をはらむ。

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センターコンソールのロータリーダイヤルはアルミ削り出しの赤色アルマイト仕上げ。 

走れば、いっそう狩猟の気配が濃くなる。「スポーツプラス」モードに切り替えると、速度が上がるほどステアリングは重みを増し、挙動はタイトに引き締まる。さらに「トラック」モードでアクセルを踏み込むと、一転、ステアリングは肩の力を抜いたようにふっと軽くなる。

意のままに、ノーズは内側へ食い込んでいく。その反応も、次の獲物へ狙いをつけるよりも早い。乾いたアフターファイアが銃声の残響のように追いかけてきて、ギアがつながるたび、圧縮されていた力が一気に撃ち放たれるような解放感がある。

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「ヴァルハラ」由来のカーボンファイバー・バケットシート(オプション)。

AMG由来のV8エンジンでありながら、そこにはアストンマーティンらしい作法があった。解き放たれるのを待つエンジンは、草むらのキジを察知し尾をピンと伸ばして全身を張り詰めさせた、イングリッシュポインターのようだった。ジリジリと引き伸ばされる、静止と緊張。そしてアクセルを入れた瞬間、わずかな「タメ」があり、爆発的な生命力で獲物のいる茂みに躍りかかるんだ。

「ヴァンテージ S」の深化は、数値を競うための近代化ではない。19世紀から続く「自然を愛し、野生に挑み、礼節を崩さない」というカントリー・ジェントルマンの流儀を、現代のテクノロジーでいっそう掘り下げること。

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リアサブフレームをボディに直結し、やわらかなリアスプリングで低速時の乗り心地を高めた。

思い出そう。映画『スカイフォール』で、ジェームズ・ボンドが最後に手にしたのは、実家に遺された亡父の猟銃だった。ボンドがアストンマーティンを駆る理由も、そこにある。領地を離れれば国家に仕え、戻れば古い銃を手に狩りへ出る。野生と礼節、享楽と義務。その両方を引き受ける生き方を、ボンドもアストンマーティンも深く受け継いでいるのだ。

「ヴァンテージ S」のキーをポケットに忍ばせる。それは決して軽くない。その感触は、英国のカントリーハウスで愛用のロンドン・ガンを手に、領地へ踏み出す朝の緊張に似ている。

アストンマーティン ヴァンテージ S

全長×全幅×全高:4,495 × 1,980 ×1,275㎜
エンジン:V型8気筒DOHCツインターボ
排気量:3,982cc
最高出力:680PS/6,000rpm
最大トルク:800Nm/3,000〜6,000rpm
駆動方式:FR(フロントエンジン後輪駆動)
車両価格:¥27,900,000〜

アストンマーティン ジャパン
www.astonmartin.com