【巨大なキノコのような、窓のない建築】OMA重松象平がメキシコに建てた「キノコ栽培所」

  • 文:青葉やまと
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オアハカ/メキシコ

 

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メキシコ・オアハカの海岸に、窓のない楕円形のコンクリート建築が出現した。まるでキノコを思わせる外観だが、その正体はズバリそのまま、キノコの栽培施設だ。OMA重松象平氏が手がけた機能に忠実な設計は、コミュニティの交流の場としても機能するよう意図されている。

窓なしのバンカーが海岸に立つ

 

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太平洋を見下ろすメキシコ・オアハカの海岸に、コンクリートの楕円形の建物がひっそりと建っている。窓はない。周囲のサボテンと緑の藪の間からのぞくその姿は、宇宙船を思わせる。

この建物は、メキシコ人彫刻家・画家のボスコ・ソディ氏が創設したコミュニティ・アート財団「カサ・ワビ」が所有する、オアハカのアートキャンパスに加わった最新作だ。

約62エーカー(東京ドーム約5個分)の敷地には、日本の建築家・隈研吾氏やポルトガルの建築家・アルヴァロ・シザ氏ら著名建築家の作品が点在する。

そこに新たに完成したのが、オランダを拠点とする建築事務所OMA(Office for Metropolitan Architecture)が設計した「マッシュルーム・パビリオン」(キノコ栽培施設)だ。英デザイン誌のウォールペーパーは、OMAにとしてメキシコで初めて完成した建築になったと指摘する。

OMAのパートナーであり、ニューヨーク事務所で代表を務める重松象平氏が設計を手がけた。彼はその外観をバンカー(壕)になぞらえながら、こう語る。

「これほど美しい景観の中にバンカーのような建物を建てるのは少し逆説的ですが、キノコを育てるという機能には忠実なんです。内部はひとりきりで向き合うような、瞑想的な体験になっています」

キノコ栽培の集会ホールを兼用

 

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重い扉をくぐると、外の気配はたちまち途絶える。壁面に窓がない代わりに、天頂のオキュラス(円形の開口部)から差し込む光が、一日を通じて室内の陰影を刻々と変えていく。

ドーム内部には広々とした空間が広がる。楕円形という形状はあくまでキノコ栽培の条件に即して採用されたものだが、視覚的にも豊かな空間の広がりを生み出している。

建築専門ウェブメディアのアーキ・デイリーによると、ドーム状の内部空間は、発生室・培養室・貯蔵室の3室に分かれ、中央の集会スペースを取り囲む構成になっている。

ドーム室内の下半分は段状になった床が占めており、地元の職人が手作りしたテラコッタ製のキノコポットを並べる棚として活用される。インテリア・デザインは、円形劇場のようなこの段状構造が、集会や講習会の座席を兼ね、栽培スペースだけでなく人の集まる場として機能すると指摘する。

栽培にもうってつけだ。楕円形の形状と段状状になった床面のおかげで、キノコの栽培プロセス全体が一望できる。

外壁は年月とともに味わい深く

 

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外殻は左官仕上げを施した現場打ちコンクリート製で、麻布のバーラップを外壁面に押し当てることで独特の質感を刻んだ。

アーキ・デイリーはこの壁面について、現地特有の高濃度の鉄分を含む水を保持する役割も果たすと説明する。吸い込まれた水はコンクリートの成分と化学反応を起こし、表面はゆっくりと錆色を帯びながら姿を変えていく。

現地にあるものを尊重するこうした発想は、建物の足元にも宿っている。基部は内側に向かって曲線状にすぼまり、地面との接触面積を最小限にとどめる形状となっている。敷地に自生する在来種のグアヤカンの成長を妨げないための、細やかな配慮だ。

重松氏は、「キノコ栽培という非常に具体的な機能のためのパビリオンを設計しながら、同時に人々が集まれる場所をつくることを目指した」と、ウォールペーパーに語る。

「できあがったのは、食とコミュニティ双方のインキュベーターです。地域住民、訪問者、そして財団のあらゆる活動を空間的に支えられる場所になりました。日本の哲学と空間的伝統に導かれたアートキャンパスに貢献できたことは、日本人建築家として特別な意義がありました」と、重松氏は続ける。

食とアートの交差点

収穫されたキノコは、カサ・ワビ財団とホテル・エスコンディードのキッチンに供給される。

アーキデイリーは、栽培プロセスをプエルト・エスコンディードの地域コミュニティに教えるという教育的役割も担い、食の生産と地域社会をつなぐ学びの場として機能すると説明する。

なお、アートキャンパスであるカサ・ワビのメインとなる建物は、建築家の安藤忠雄氏が設計し、2014年に完成した。

重松氏が「日本の哲学と空間的伝統」という言葉を使ったのは、安藤忠雄氏がこの地に確立した日本建築の伝統を自身も受け継ぐという意識の表れとも読める。その核にあるのが、不完全さや無常の中に美を見出す「侘び」の精神だ。

OMAにとってメキシコ初の竣工作品となったこのパビリオンは、機能と哲学を体現しながら、時と共にゆっくりと錆色を帯び、変容し続けてゆく。

青葉やまと

フリーライター

1982年生まれ。大手メーカー系企業でのシステムエンジニア職を経て、2010年から文筆業に転身。IT・アートから国際政治・経済まで、幅広くニュース記事の執筆を手がける。ウェブサイト『プレジデントオンライン』などに寄稿中。

青葉やまと

フリーライター

1982年生まれ。大手メーカー系企業でのシステムエンジニア職を経て、2010年から文筆業に転身。IT・アートから国際政治・経済まで、幅広くニュース記事の執筆を手がける。ウェブサイト『プレジデントオンライン』などに寄稿中。