【Penが選んだ、今月の読むべき1冊】
『自転車日記』
デヴィッド・バーン 著 東辻賢治郎 訳 鹿島出版会 ¥3,300
デヴィッド・バーンのライブを観たさにサマーソニックに行った。映画『アメリカン・ユートピア』や『ストップ・メイキング・センス』で観た世界を体験できた感動にうち震えながらも、衰えを知らないその声とタフさに驚いた。単独ライブの2日後にフェスに出演し、さらに翌日も大阪でライブをする74歳。秘訣はやはり自転車なのか。
本書は自転車愛好家として知られるバーンが、サドルの上から見えてきた世界を徒然なるままに記したエッセイ。ボルチモアで育った少年時代の記憶から始まる思索の旅だ。地元のニューヨークはもちろん、ツアー先にも折り畳み自転車を持って行って街を探検する。4マイル離れた恋人の家にも自転車で行ったし、10マイル離れたナイアガラの滝までも自転車を漕いだ。
ベルリン、イスタンブール、ブエノスアイレス、マニラ、シドニー、ロンドン、サンフランシスコ……。車や鉄道なら通り過ぎるだけの街が、自転車で走れば、親しげに語りかけてくる。思考にも速度があるのだ。急ぎすぎず、でも走りながら考える。その速度が心地いい。目に飛び込んできた風景を的確に読み解く手際が見事で、それぞれの街の成り立ちや人々の暮らしが浮かぶ。ライブで彼は言った。
「いまの時代、愛と思いやりこそ最高にパンクな行為だ」と。
憂鬱な時代だ。ともすれば悲観的になるけれど、必要なのはこの態度じゃないかと思えてくる。答えはいつも街の中に、人々の声の中にある。そこへ諦めず飛び込み、考え続けること。
ひたすら移動し続け、考え続けるバーン。そのペダルを漕ぐリズムが読み終えてもなお、こだまのように胸に響いてくる。そういえば忌野清志郎も自転車に乗っていた。とりあえず自転車に乗って、自分も街に出てみたくなる一冊。