“清く正しい酒づくり”を追求。聖地・奈良県三輪で、今西酒造14代目が磨き上げた「みむろ杉」

  • 文:中井シノブ
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ここ数年、めきめきと頭角を現し注目を集める酒蔵がある。「SAKE COMPETITION 2026」の純米酒部門、純米吟醸部門で一位を獲得した今西酒造だ。日本酒発祥の地、奈良県桜井市三輪にあるこの老舗酒蔵の躍進には、14代目の蔵主・今西将之さんの蔵を大切にするものづくりの精神があった。

酒の聖地から生まれる、清らかな日本酒

日本酒の発祥には諸説あるが、弥生時代に大陸から稲作が伝来したのとほぼ同時期に、日本での酒づくりも始まったといわれている。当時の酒は現代の透明な清酒ではなく、口噛み酒をはじめとする神への捧げものだった。大陸から伝わった稲作と、古からの神への信仰。このふたつが結びつき、何千年もの年月を経て、日本酒は神聖な儀礼の品から「食卓を豊かにする酒」へと洗練を極めてきた。

『日本書紀』によれば、三輪は日本で最初に酒づくりが行われた“発祥の地”とされている。三輪山をご神体とする大神(おおみわ)神社の境内には、いまも日本で唯一の杜氏の神様・高橋大明神を祀る活日(いくひ)神社があり、多くの蔵元や杜氏が技術の向上を祈るために毎年参拝に訪れる。三輪はいわば、日本の酒づくりにおける「聖地」なのだ。

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酒づくりの聖地、奈良県・三輪。三輪山をご神体とする大神神社には、多くの蔵元や杜氏が訪れている。

ちなみに、酒蔵などの軒下に吊るされている丸い杉玉をよく目にするが、これも三輪山に自生していた杉にあやかったもの。活日神社の御神木の穂先を束ねて門口に飾ったのが始まりで、当初は、酒箒や酒旗と呼ばれていたそうだ。現在のような玉状になったのは、江戸時代後期になってからだという。

その大神神社のお膝元で、万治3年(1660年)に創業したのが今西酒造である。以来、絶やすことなく御神酒を奉納し続けてきた。代表銘柄である「みむろ杉」の名は、三輪山の古称である「三諸山(みもろやま)」と、そこに神が宿るとされる杉に由来する。

今西酒造の14代目蔵主・今西将之さんは、この地で醸す日本酒の根底には、三輪の豊かな自然があると語る。

「酒の味は水と米で決まります。うちの井戸からは、酒の神様が宿る三輪山の伏流水が1時間あたり6トンも湧き出ている。口に含むとふわっと消えるような、やわらかくてまるい軟水です。さらには、その水が湧き出る同じエリア内で、『みむろ杉』の酒粕を肥料にしながら循環型農業によるお米づくりも行っています。つまり、うちのお酒は三輪山の自然そのものの味わいなんです」

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1660年に創業した今西酒造。、全国から熱意ある若者たちが集い、酒づくりに取り組んでいる。

どれほど技術革新を繰り返そうとも、先人たちが築き上げてきた技法や、三輪の風土、歴史、文化、そしてテロワールの力にはかなわない。だからこそ、それらの歴史や自然の息吹をそのまま酒に宿らせる。

それを徹底的に追求するため、あえて味わいの異なる酒種や多角的なブランドを増やすようなことはしない。創業の地である宮の地にとことん向き合い、「みむろ杉」の味わいをひたすら磨き上げ、三輪ならではの「美しい日本酒」を深く掘り下げ続けている。

今西酒造当代が語る、酒造りへの想い

将之さんが、実家の今西酒造に戻ったのは28歳のときだ。大学卒業後、東京の大手企業に就職し、営業として実績を積んでいた。もともとは「いずれ30歳で実家に戻り、10年かけて父から経営を学び40歳で蔵を継ぐ」という将来設計を描いていたという。ところがある日、その父から「余命3か月と告げられた。蔵に戻ってこい」という一本の電話が入る。急ぎ会社を退職して実家へ戻ったが、父はわずか1週間後に急逝してしまう。

戻って知ったのは、蔵の悲惨な現実だった。日本酒の製造だけでなく、多角経営していた飲食店や宿泊業も赤字に陥り、会社は深刻な経営危機にあった。

「このままでは、家業を潰してしまう」

強い危機感を抱いた将之さんは、一念発起して蔵の再生へと立ち上がる。2011年のことだった。

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製造工程を一から見直し、“正しい酒づくり”の実践を徹底する今西酒造。

「うちの酒は、なぜ売れないのか」

力不足を痛感した将之さんは、全国から評判の日本酒を取り寄せ、ブラインドテイスティングを行った。突きつけられたのは、「うちのお酒だけが、明らかに美味しくない」という現実だった。覚悟を決めた彼は、酒づくり以外の事業をすべて売却し、本業の日本酒への徹底的な大改革をスタートさせる。

まず取り組んだのは、古い設備や機材の完全な刷新だ。古い設備や機材をすべて処分し、最先端へと一新した。大量生産や効率化を目的とした設備投資ではない。“正しい酒づくり”を徹底するための投資だった。たとえば、お米の表面のぬかを落とす作業。数トンの米を機械で一度に洗うのではなく、10キロずつ小分けにして手作業で丁寧に洗う。それを可能にするための清潔な洗米室という環境が必要だったのだ。

当たり前だが、手作業を増やせば人でもいる。ふたつめの大きな改革は、製造体制の刷新と若い蔵人たちの採用だった。全国から熱意ある30歳前後の若者たちを募り、約30人という手厚い製造体制を築いた。一つひとつの作業に惜しみなく時間をかけられる環境をつくったのだ。

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古い設備・機材も一新。手作業も増えたが、人員も増強した。

そうして一つひとつの工程を考え抜いて改良し、年月を重ねるなかで、「みむろ杉」は徐々に洗練されていった。将之さんが蔵に戻って15年。いまや誰もが認める美味しい日本酒へと生まれ変わった。

「すべては積み重ねと連動です。酒づくりはひとつの工程を変えれば、麹づくりや吸水工程、その他のあらゆる工程にすべてが連動していきます。だから、急に一筋の光が差すような劇的な変化の瞬間があったわけではないんです。微調整と正しいことの積み重ねを、日々行ってきた結果なんです」と、将之さんは語る。

酒づくりの設備や手法において幾多の改革を行ってきたが、その底辺にある哲学は、創業時から何ひとつ変わっていないという。それは、“清く正しい酒づくり”。「清い」とは、酒の神様が鎮座する大神神社の清らかな空気感を、酒蔵の徹底したメンテナンスや清掃、そして空間や液体づくりを通じて表現すること。そして「正しい」とは、効率やコストパフォーマンスに流されず、本来なすべき正しい工程を一切の妥協なくやり抜くことだ。

聖地・三輪の風土と、若き蔵人たちの情熱、そして妥協なき「正しさ」の積み重ねが、美しい「みむろ杉」を醸しているのだ。

SAKE COMPETITIONで3部門受賞、一杯の酒が“三輪”を伝える

10月1日の「日本酒の日」、今西将之さんは受賞した栄誉ある2本の酒を携えて、奈良県知事・山下真を表敬訪問した。この日、知事に贈られたのは、「SAKE COMPETITION2026」の純米酒部門で1位に輝いた「みむろ杉 ろまんシリーズ Dio Abita」と、純米吟醸部門で1位を獲得した「みむろ杉 ろまんシリーズ 純米吟醸 山田錦」だ。今西酒造はこの2冠に加え、伝統を受け継ぎながら革新を重ね、世界に誇る日本酒文化を築いてきたことが評価され、「最優秀酒蔵賞」も受賞。その喜びを、知事へ直接報告した。

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「SAKE COMPETITION2026」で純米酒部門で1位に輝いた「みむろ杉 ろまんシリーズ Dio Abita」(左)と、純米吟醸部門で1位を獲得した「みむろ杉 ろまんシリーズ 純米吟醸 山田錦」(右)。

今回の受賞を機に、将之さんは改めて自分たちが、いかに奈良の自然の美しさや歴史、文化に恵まれてきたかを再認識したと話す。

「奈良には先人たちが築き上げた菩提酛(ぼだいもと)などの素晴らしい醸造技法があり、県内の田んぼでお米づくりもしています。うちの蔵では、三輪の地に根付く『三輪乳酸菌』を活用するなど、日本酒の中に『奈良らしさ』『三輪らしさ』を表現してきました。これからも、この地の恵みをいかに取り込み、形にしていくかを追求していきたい」と語る。

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今西将之さん(右)と山下真奈良県知事(左)。将之さんは「国内外の皆さまへ“おらが酒”として奈良酒の魅力を伝えていきたい」と語る。

毎年、その年の新しい酒づくりを始める9月末の大安の日には、蔵人全員で大神神社へ参拝する。そして蔵に戻り、今季の方針発表会を行って、新たなチャレンジも含めた方向性やビジョンを全員で共有する。大きく革新を続ける組織だからこそ、志をひとつにすることが大切だという。

目指すのは、単なる美味しい酒ではなく、土地の物語を背景にした“美しい酒”。

将之さんのその言葉に知事も深くうなずき、「一般的にはまだまだ認知度が低い『奈良酒』の魅力を、行政と蔵主が一体となって国内外に広めていこう」と、次代に向けた力強い協力を誓い合った。

「みむろ杉」を味わいに、東京湾岸エリアへ

10月30日(金)から11月18日(水)まで、「みむろ杉」を味わえるイベント『秋の美酒美食ホッピング』が東京湾岸エリアにて開催される。WATERS takeshiba、TAKANAWA GATEWAY CITY、OIMACHI TRACKSの3エリアにある計6店舗で、「みむろ杉」と各店がこのイベントのために考案したオリジナルのペアリングメニューが提供。2エリア以上の対象店舗を巡ると、抽選で100名に「みむろ杉」の新酒が当たるキャンペーンも実施される。

今西酒造が追求する“清く正しい酒づくり”から生まれた一杯を味わいに、ぜひ足を運んでみてほしい。

SAKE COMPETITION
https://sakecompetition.com/index.html

今西酒造
https://imanishisyuzou.com