20世紀フランス絵画の巨匠、アルベール・マルケ(1875~1947年)。生誕150周年を記念して、『開館50周年記念 アルベール・マルケ展』が、東京・西新宿のSOMPO美術館にて開かれている。これまで「マティスの友人」や「フォーヴィスム(野獣派)の画家のひとり」として紹介されがちだったが、日本では35年ぶりとなる本展は、マルケその人の画業に真っ直ぐ光を当てている。
---fadeinPager---
ボルドーからパリへ、フォーヴィスムの時代を駆け抜けて
フランス南西部の港湾都市ボルドーで生まれたマルケは、幼少期から水辺の景色に親しみ、絵の才能を示して母とともにパリへと移住する。そして国立装飾美術学校で学んだ後、ギュスターヴ・モロー教室に入り、マティスらと研鑽を積んだ。『裸婦、通称フォーヴの裸婦』はモロー教室を去る前、マティスと競うように制作したとされる一枚。背景には緑や青などの色彩が点描風に置かれ、伝統的な裸体画の枠組みのなかに、新印象派に倣った実験的な表現が見て取れる。
ただしマルケはフォーヴィスムの時代に身を置きながらも、その図式に収まらない独特なスタイルを模索していった。色彩の理論化へと進んだマティスとは異なり、一貫して観察に基づくリアリズムを志向。裸体画やパリなどの都市を描いた絵画、および水辺の情景を通して、線と色のトーンによる画面構成を探求する。「マルケのグリ」と称される灰色をはじめとした抑制された色彩、明快な構図、簡潔で生き生きとした描線を用いて作品を制作していった。
『ナポリ、帆船』から『ル・ピラ』へ、水辺をめぐる旅
水と船のある場所であれば、どこにいても居場所を感じられたというマルケは、河川や海、港などの水辺を求め、生涯にわたって国内外を旅した。『ナポリ、帆船』は、ナポリを2度訪ねた彼が、2度目の滞在で描いた作品だ。画面の下まで広がる水面には釣り船や帆船が浮かび、遠くにはヴェスヴィオ山のシルエットを望める。「ナポリはいつだって日があたり、退屈しない」とマティスに手紙で記したマルケの言葉の通り、明るい光に包まれた南イタリアの開放感までが伝わってくる。
ひときわ色鮮やかな『ル・ピラ』は、故郷ボルドーに近い保養地の海を描いたもの。砂浜から青い海、そして雲の湧き立つ空を連続するような構図で捉え、絵の前に立つと思わず深呼吸したくなるような潮風の心地よさすら感じられる。また画面の中心を占める海は、絶品と言いたくなるほど魅力にあふれ、満ち潮の際に現れるというターコイズの緑から青へのグラデーションが、繊細かつ美しく表現されている。
---fadeinPager---
運命の街アルジェ、そして妻マルセルとの出会い
長引くインフルエンザの転地療養を勧められたことをきっかけに、マルケは1920年以降、北アフリカのフランス領アルジェをたびたび訪れた。最初にガイドを務めたマルセルとは、3年後に結婚。夫妻は各地を旅したが、アルジェは毎年のように滞在した特別な場所となる。とりわけ戦時下にあった1940年からの5年間は本拠地として、この地で長く暮らした。これほど彼が継続的に訪ね、描き続けた都市はほかにない。
港に停泊する軍艦などを捉えた『アルジェの連合艦隊』に目を向けたい。1942年11月、アメリカ艦隊がアルジェリアに上陸すると、アルジェは連合国艦隊の重要な拠点となった。ナチスの影響下にあった当時のヴィシー政権に反対していたマルケは、夫人とともにこの上陸を喜んだという。ただし港のアパルトマンが軍に接収されたため、ホテルの窓から港湾風景を描いた。一見穏やかな景色のなかに、戦時下の緊張感も刻まれた作品だ。
パリとラ・フレット、暮らしの営みを感じさせる風景を描く
第二次世界大戦後、パリに戻ったマルケは、亡くなるまでの2年間をパリと近郊のセーヌ河畔の村ラ・フレットを行き来して過ごす。『ラ・フレットへの道』は、セーヌ河を一望できる屋根裏のアトリエから眺めた景色を描いた作品で、セーヌを行く舟や、明るい日差しのなかを歩く人々など、穏やかで暮らしの営みを感じさせる日常の風景が広がっている。1947年、72歳で世を去った彼は、ラ・フレットを一望できる丘の上の墓地に埋葬された。
マルケの最大コレクションを有するボルドー美術館をはじめ、アンドレ・マルロー近代美術館など、フランスの公立美術館の協力を得て実現した本展の出品作品は約90点。油彩画のほか、インクや墨による素描、マルケの死後に妻マルセルが出版した挿絵本も並び、学芸員の桑名真吾が「フランスで開催されるマルケ展と同レベルだと自負している」と語るほど充実している。最後の巡回地となるSOMPO美術館で、マルケの全貌をぜひ見届けてほしい。
『開館50周年記念 アルベール・マルケ展』
開催期間:開催中~2026年12月13日(日)
開催場所:SOMPO美術館
東京都新宿区西新宿1-26-1
開館時間:10時〜18時(金曜は20時まで)※最終入場は閉館30分前まで
休館日:月(10/12、11/23は開館)、10/13、11/24
観覧料:一般(26歳以上)¥2,000 他
https://www.sompo-museum.org




