【ゴッホ、モネ、ピカソ】名画81点が日本初公開。セザンヌの絵の下に隠された肖像画も|『シンシナティ美術館展』

  • 文&写真:はろるど
Share:

 

1.jpeg
フェルディナント・ホドラー『聖なる時間』 1907〜11年頃

ファン・ゴッホの最晩年の傑作をはじめとする、シンシナティ美術館(アメリカ・オハイオ州)が所蔵するヨーロッパ近代美術コレクションが、上野の森美術館にやってきた。62作家84作品のうち、実に81点が日本初公開。モネやピカソといった巨匠だけでなく、日本ではあまり馴染みの薄い画家にも魅惑的な作品が並んでいる。

ヨーロッパ近代美術の系譜と、思いがけない作品との出会い

2.jpeg
エルンスト・フェルディナント・エーメ『月光に照らされた城のある風景』 1853年

ブグローらの「アカデミスム」に始まり、コローなどの「バルビゾン派」、マネやセザンヌの「伝統への反逆者たち」から、モネ、ルノワールの「印象派」へ。さらにファン・ゴッホらの「ポスト印象派」と「ナビ派」、ピカソなどの「キュビスム」を経て「表現主義」までを紹介する本展は、ヨーロッパ近代美術の「教科書」のような内容だ。なお作品の多くは、20世紀半ば、シンシナティの地域社会に貢献した女性美術収集家たちが寄贈したものだという。

エルンスト・フェルディナント・エーメの『月光に照らされた城のある風景』に思わず足が止まる。舞台は、エーメが拠点としたザクセン地方やエルベ川流域に特徴的な湿地と湖の一帯。水面の向こうには月明かりを受けた城が浮かび、松明の光のもとには、城へと進む一行の姿が見える。画中の城や敷地は特定されておらず、架空のものとされているが、静まり返った情景に目を凝らすうち、絵の前に立っているはずが、いつしか夜の湖畔に佇んでいるような心地になる。

隠された肖像画、後から加えられたサインの正体

3.jpeg
ポール・セザンヌ『パンと卵のある静物』 1865年

近年の調査で新たな事実が分かった絵画にも注目したい。ポール・セザンヌの『パンと卵のある静物』は、2022年のX線撮影調査で、絵の具層の下に男性の肖像画が隠れていることが判明した作品だ。しかも肖像画は90度回転した向きで描かれており、セザンヌは描きかけのカンヴァスを横に倒し、その上に静物画を重ねたことがうかがえる。経済的な制約もあってか、既存のカンヴァスを再利用したと考えられている。

フランシスコ・ミラレス・イ・ガルプの『休息』は、約1世紀にわたり、ベルギーの画家アルフレッド・ステヴァンスの作品とされてきたものの、本展に向けた修復で、ミラレス自身の手によるものだと明らかになった。汚れを取り除く過程で、ステヴァンスのサインが後から描き加えられていたことが分かったという。当時の所有者または画商が、高値で取引される作品に見せるため、サインを偽ったものと推測される。

---fadeinPager---

ファン・ゴッホ、ホドラー。見逃せない二つの名画

4.jpeg
フィンセント・ファン・ゴッホ『ポプラ林の中の二人』 1890年

フィンセント・ファン・ゴッホの『ポプラ林の中の二人』は、1890年夏に37歳で亡くなった画家が、生前最後に仕上げた作品のひとつ。紫がかった幹が列柱のように立ち並び、黄色い花が咲きほこる森を、男女のカップルが寄り添うように歩いている。紺碧の背景は薄暗く、森の奥深さを思わせる一方、人物の姿は足元の花や草木に溶けるように描かれ、どこか不穏で幻想的な世界が広がっているようにも見える。

ひときわ目立つフェルディナント・ホドラーの『聖なる時間』は、本展のハイライトと呼ぶにふさわしい一枚だ。描かれているのは、青いロングドレスを着た二人の女性。左右対称の構図ながらもポーズはわずかに異なり、静止しているようでいて、今にも手足を動かして踊り出すような気配が感じられる。対称性やリズムを重んじ、「パラレリズム(平行主義)」と呼ぶ独自の象徴主義を追求したホドラーは、即興的な動きで感情を強調するリトミックのダンサーより着想を得て、本作を手がけた。

幸福感に包まれる、とっておきの風景

5.jpeg
ホアキン・ソローリャ・イ・バスティダ『バレンシア港』 1897年

展示室をゆっくり歩きながら、自分だけのお気に入りを探していくのも楽しい。アルフレッド・シスレーの『ブージヴァル』は、パリ市民に人気の行楽地だったセーヌ川沿いの街を描いたもの。陽光に満ちた青空と波打つ水面に目を奪われるが、画面右奥には工場が立ち並び、商工業の拠点として発展していった街の姿もありのままに捉えられている。ごくありふれた平穏な風景だからこそ、じんわりと幸福感が広がり、ずっと眺めていたくなる作品だ。

ホアキン・ソローリャ・イ・バスティダの『バレンシア港』も、忘れがたい魅力を放っている。舞台は、画家の故郷であるスペイン地中海沿岸の港町、バレンシア。籠と水差しを持って歩く少年を前に、ボートや舟が停泊する浅瀬で子どもたちが遊ぶ光景が広がっている。一通り作品を追っていくと、「知らない画家だって、好きになるのに理由はいらない。」そう素直に思えるほど、絵を見る喜びがまっすぐに伝わってくる。

※作品はすべてシンシナティ美術館蔵

『シンシナティ美術館展~アメリカに渡ったヨーロッパの至宝~』

開催期間:開催中~2027年1月10日(日)
開催場所:上野の森美術館
東京都台東区上野公園1-2
開館時間:10時〜17時 ※入館は閉館の30分前まで
会期中無休
観覧料:一般¥2,400 他
www.cincinnati-art2026.jp

はろるど

アートライター / ブロガー

千葉県在住。WEBメディアを中心に、アート系のコラムや展覧会のレポートを執筆。日々、美術館や博物館に足を運びながら、作品との出会いや発見をSNSにて発信している。趣味はアートや音楽鑑賞、軽いジョギング。そしてお酒を楽しむこと。

はろるど

アートライター / ブロガー

千葉県在住。WEBメディアを中心に、アート系のコラムや展覧会のレポートを執筆。日々、美術館や博物館に足を運びながら、作品との出会いや発見をSNSにて発信している。趣味はアートや音楽鑑賞、軽いジョギング。そしてお酒を楽しむこと。