日本酒の伝統を尊重しながら、その可能性を押し広げてきた「IWA」。創立者であり醸造家のリシャール・ジョフロワが手がける「IWA 5」シリーズに、第7作となる最新作が登場した。異なる原酒を組み合わせ、時間という魔法をかけることで生まれる、豊かで複雑な香味と“浮遊”するほどの軽やかさ。相反する個性が共鳴する美しいその味わいの背景には、長年の試行錯誤を経てたどり着いた、新たな酒造りの哲学がある。
伝統を受け継ぎながら、日本酒の境界線を押し広げていく
「IWA」は、シャンパーニュの名門「ドン ペリニヨン」で28年間にわたり醸造最高責任者を務めたリシャール・ジョフロワが創立した日本酒ブランドだ。2019年の立ち上げ以来、富山県立山町白岩の酒蔵を拠点に、革新的な日本酒を生み出している。
数々の歴史的なビンテージを手掛け、業界では“伝説の醸造家”とも称されるジョフロワが日本に惹かれたのは、意外にも酒造りにおける“自由さ”だったという。
世界から見ると日本は伝統的で保守的と思われがちだ。ともすれば日本人の中にも、そうした意識は根付いている。しかし、「伝統を重んじることと、保守的であることはまったく違う」と、ジョフロワはいう。
「日本の酒造りの素晴らしさは、創造性を発揮する場が広く開かれており、しかもそこに限界がないこと。長くワインの世界にいたからこそ、私はいま日本で本当に自由に酒造りができていることを実感しています」
そう話すジョフロワが醸す「IWA」を特別なものにしているのが、複数の原酒を組み合わせてブレンドする「アッサンブラージュ」と、瓶の中で時間をかけて熟成を行う「ボトル・マチュアリング」。一般的な日本酒でも、製品の均質化を図るためのブレンドを行うケースはよくあるが、IWAが行うアッサンブラージュは、それとは一線を画すものだ。
異なる個性を持つ原酒一つひとつを見極めて選択し、絶妙なバランスで配合することによって生まれる複雑さを、時間の力でひとつの味わいへとまとめ上げていく。そうして生まれる「IWA」を、ジョフロワは「日本酒の世界における一つの“シンギュラリティ(特異点)”」と説明する。
「IWAはこれまでの日本酒から完全に切り離されたものではなく、日本酒の世界の境界線を押し広げるもの。私たちはIWAを通じて、日本酒の魅力をより多くの人に広め、日本酒が世界へと羽ばたくための一助となりたいと考えているのです」
個性的な20の原酒が織りなす、緻密で芸術的なバランス
10月1日に発売された「IWA 5 アッサンブラージュ7」は、2020年から1年毎にリリースされる「IWA 5」シリーズの最新作だ。
「IWA 5」では毎回、ジョフロワが「IWAのDNA」と呼ぶ3種類の酒米と、5種類の酵母の組み合わせで醸した原酒を使用する。使用するのは日本酒酵母とワイン酵母。新しい酵母の使用にも積極的に挑戦しており、今回は日本酒の7号酵母を新たに採用した他、白麹も使用しているという。
「今回の『アッサンブラージュ7』で表現したかったのは、日本人が持つ繊細な心を表す“流れるような飲み心地”と、その先にある“豊かさ”との極めて繊細なバランス。50種類の候補から選んだ20種類の原酒を使用していますが、7号酵母と白麹で醸した原酒は特に印象的な要素となっています」
追求したのは、複雑で豊かで厚みのある味わいと、流麗で浮遊するかのような軽やかさ。二つの矛盾するそうした要素を見事に両立させているのが、彼が長年の経験から辿り着いたという「エピュール」の探究だ。
フランス語で「純化」や「洗練」を意味し、不要な要素を削ぎ落とすという「エピュール」という考え方は、前回の「アッサンブラージュ6」から取り入れられている。「IWA」の創造の旅とその味わいの進化を象徴するうえで、まさに外すことのできないアプローチであり哲学だ。
誰もが美味しいと思える、まだ見ぬ味わいへの挑戦
また、そのプロセスはIWA史上最も実験的ながら、日本酒らしい凛とした存在感など、クラシックな表情を備えていることも今作の特徴だ。
まず感じることができるのは、洋梨やプラムなどのフルーツと、白い花々を思わせるフローラルな香り。やがて黒糖やローストしたパイナップル、ヨードのニュアンスなどが現れ、香りに深みが加わっていく。
飲めば、豊かで厚みのあるフレーバーが、驚くほど軽やかに口の中に広がる。洗練された香りと同様に、味わいもフルーティで華やか。フィニッシュには繊細なビター感を伴う心地よい余韻が残り、その味わいの記憶を忘れられないものにしてくれる。
「IWA」が追求するのは一貫した表現ではなく、その年々にしか出会えない新しい味わいだ。
「私たちの究極の目標は、味覚の満足を超えて、人々と共有できる体験や感情を生み出すこと。毎年のアッサンブラージュを、皆さんとともに祝祭のように味わうことが私たちの喜び。そのための実験や挑戦は、今後も永遠に続いていくことでしょう」と、ジョフロワは話す。
「IWA」の魅力を引き立てる、故郷の作家たちとの競演
伝説の醸造家の探求が、新たな一本との出合いをもたらす――。そんな「IWA」の魅力を、富山を代表する5名の作家の作品とともに体感できるイベント「五感で味わう芸術—IWA 5と富山の5人の作家—」が、銀座・和光の本店地階アーツアンドカルチャーで開催された。
会場には、大阪・関西万博の迎賓館での作品展示も話題となった和紙職人の川原隆邦をはじめ、「IWA」の生まれ故郷である富山で活動する作家たちの作品が並び、新作の「IWA 5 アッサンブラージュ7」や過去の「IWA 5」シリーズとともに紹介された。
酒造りと工芸──。表現は異なれど、素材と向き合い、試行錯誤を重ねながら新しい価値を生み出そうとする姿勢には通じるものがある。今回の展示は、そんな「IWA」のものづくりへの考え方、創造性に触れる機会ともなった。日本酒好きはもちろん、ワイン好きの方々も、進化し続ける「IWA」の最新作をぜひ、味わってみてほしい。