音楽家・坂本龍一が1980年代に自らシャッターを切った写真が、写真展と写真集になった。渋谷・MIYASHITA PARKのギャラリー「SAI」で開催中の『PHOTO RYUICHI SAKAMOTO』。世界中のカメラに追われていた“教授”が、レンズの向こうになにを見ていたのかを静かに伝えている。
撮られる人が「撮っていた」80年代
YMOでの世界的成功、『戦場のメリークリスマス』での俳優としての顔。80年代の坂本は、誰よりも“撮られる側”にいた。だが本展に並ぶのは、そうした華やかな記録ではない。旅先の風景、ふと差し込む光、暗がりに置かれた目覚まし時計。1982年の日付をもつ一枚は、矢野顕子のレコーディング現場で撮られたポラロイドだ。85年のバリでは、カフェの片隅や夜の舞踊にカメラを向けている。音に耳を澄ますように対象と向き合う、親密な距離感が印象に残る。
会場では、坂本が実際に使っていたポラロイドの機材も特別展示される。ネガを持たず、その場で一度きりの像が立ち上がるこのメディアは、ウォーホルやサイ・トゥオンブリーにも愛された。偶然を受け入れるゆらぎのある質感は、のちに坂本が向き合う“不完全な音”への関心とも、どこかで響き合って見える。
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『skmt』から27年、後藤繁雄が編んだまなざし
キュレーションと写真集の企画・編集を手掛けたのは、編集者の後藤繁雄。1999年にリトルモアから刊行された『skmt』で坂本の思考を聞き取り、篠山紀信らの写真集も手掛けてきた、現代写真に精通する人物だ。言葉で坂本を編んできた後藤が、今度は坂本自身の視線を編む。
写真集はポラロイド篇とスナップショット篇の2冊組。表紙には竹尾の色紙「NTラシャ」120色がランダムに使われ、どの組み合わせが届くかはわからない。一冊ごとに表情が異なる造本は、ポラロイドの一回性にも通じる。会場では一般発売に先駆けて先行販売中だ。11月1日には後藤とアーティスト・島袋道浩のトークも予定。音楽とは別の回路で坂本龍一に出会える、貴重な機会になるだろう。
坂本龍一 写真展『PHOTO RYUICHI SAKAMOTO』
開催期間:開催中〜2026年11月8日(日)
開催場所:SAI
東京都渋谷区神宮前6-20-10 RAYARD MIYASHITA PARK South 3F
開館時間:11時〜20時
休館日:会期中無休
入場料:無料
www.saiart.jp