EVの時代にも、エンジンは進化している。なんて、じつに興味ぶかい事実を教えてくれたクルマが、マツダが2023年に送り出した「MX-30ロータリーEV」だ。
欧州で23年1月に発表されたあと、ロータリーエンジンを使ったハイブリッドシステムのクルマなんてどんなだろうと、興味をかきたてつつ、なかなか発売されなかった。ついに念願かなったのが12月だ。
このクルマのユニークなところは、ひとつはボディデザイン。そもそも2020年10月に日本で発表されたMX-30は、クーペライクな4ドアハッチバックSUV。後席用のドアは後ろヒンジの「フリーダムドア」で、前席用ドアといわゆる観音開きになる。
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フリーダムドアと同種の観音開きを採用しているクルマには、フェラーリの「プロサングエ」が思いつく。
理由としてフェラーリのエンジニアリングのトップは「ボディ剛性確保のため開口部を小さめに抑えるのに、ドアの前後長もそれほど長くしなくてすむこの手法が最適」と、私に話してくれたことがある。
ファミリーユーザーもターゲットにしたMX-30では、前席用ドアを開けないとフリーダムドアを開けることが出来ないため、後席に子どもを乗せても安心していられるメリットもあるんじゃないだろうか。
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もうひとつ、MX-30の大きな特徴は、マツダのラインナップにおいて新世代パワートレインを搭載する、先駆的な役割を担っていること。マイルドハイブリッドがあって、ピュアEVがあって、今回のロータリーエンジンを使ったハイブリッドが、というぐあいなのだ。
ロータリーエンジンっていうのは、ちょっとクルマが好きなかたになら説明不要かもしれない。エンジンの一形式で、通常のオットーサイクルはピストンの上下運動を駆動力に使うのに対して、ロータリーは三角(おにぎり形とも)のローターがピストンのかわりに回転する。
メリットは小型化と、小さな排気量でも大きなパワーが出ること。マツダは軽量や低いボンネットが大事なスポーツカーに、ロータリーエンジンを使ってきた。ただし燃費やコストの問題で、同社のロードスターへの搭載は見送られてきたのだけれど。
そんなロータリーにいままたマツダが注目しはじめたのはおもしろい。理由について「コンパクトなので、電気モーターやインバーターと組み合わせても小さなエンジンルームに収まってしまうため、ハイブリッドに使う価値があると判断しました」と、マツダ株式会社パワートレイン開発本部の川田卓二主幹が教えてくれた。
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かつてのRX-7やRX-8と違うのは、ロータリーエンジンを直接駆動のために使うのでない点。MX-30ロータリーEVの特徴は、駆動用バッテリーへの充電のためだけに使う。ロータリーエンジンを使ったシリーズハイブリッド方式を採用している。
じっさいの駆動はモーターで行われるので、ようするにEVそのもののスムーズな加速性がセリングポイントになっている。すいすいと気持ちよく走れる。
バッテリーの残量が少なくなったり、強い加速をするとエンジンが始動するが、かなり静か。エンジンが回っているのは、ほとんどわからないほどだ。
MX-30ロータリーEVはしかも外部充電式のプラグイン方式なので、市街地での通勤などに限れば、ピュアEVとして使っていられるだろう。一充電で107kmのEV走行が可能なんだそうだ。
そこでエンジンが必要なのはなぜだろう。長い距離を走るなら、EVの一充電走行距離は256kmとされているのに対して、ロータリーEVでは700kmを超えるという(マツダの正式発表はないけれど)。
加えてわざわざロータリーエンジン開発に踏み切った理由を、前出の川田主幹に尋ねると「将来性」という言葉が返ってきた。
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北欧や北米ではピュアEVが増えているとはいえ、日本をはじめ、多くの国では充電インフラの整備問題や、クルマじたいの価格などがネックになって、普及には時間がかかると言われている。
たしかに南欧や、中国だって地方にいくと、充電ステーションを見かけることは稀。そこでマツダでは「適材適所」という言葉を使う。市場に応じて最適な環境適合車を投入していく製品戦略で、日本では現状ハイブリッドが向いていると判断したそうだ。
そこにあって、ロータリーエンジンを使うハイブリッドは、先述したとおり、パワートレインがコンパクトにまとまるので、ローターやモーターの数を増やしても無理のない設計が可能になる、とパワートレイン担当の川田主幹。
「ロータリーEVで、(23年10月に発表した)アイコニックSPコンセプトのようなスポーツカーだって可能になると思います。これからも可能性を追求していきたいと考えています」
クルマのあらたな可能性を感じらせるロータリーEVなのだ。これからが楽しみである。