史上最強のビッグサルーン、それが「Mercedes AMG S 63 E Performance」ですよ。定番の4リッターV8ツインターボに、電気モーターを組み合わせたSクラス初のPHV(プラグイン・ハイブリッド)。800馬力でトルクは1400ニュートン超という、もはや誰がライバルなのか分からない絶海の孤島みたいなパフォーマンス(笑)。
スペックだけ見るとラスボス的な怪物サルーンだけど、マイバッハのSクラスと比較すれば違いは瞭然。大人気のファンタジーコミック『葬送のフリーレン』でいえば、アドレナリン(興奮)をかきたてる攻撃的な魔法使い=AMGか、かたやエンドルフィン(安らぎ)で包み込む癒しの僧侶=マイバッハかで、ハイレベルな双璧を成している。そう、AMGとマイバッハが老舗ブランドの名前をかけて「Sクラス畢竟(ひっきょう)」の座を争っているんだ。
まず、ひとめ見た瞬間から「シッブ……」と唸らされた。なぜか現行Sクラスのロングボディを見ると、怖かった長ランの先輩を思い出すんだけど(笑)、やっぱり不良には魅力があるよね。車内に漂うスパイシーなフレグランスといい、静かに不穏なビートを刻むV8エンジンといい、“チェーンチョーカーをつけたドーベルマン”みたいな威圧感がある。
アクセルを踏めば、度肝を抜かれる速さ。一度怒ると止められない先輩、もとい獰猛なドーベルマンみたいに野性のままに四肢を蹴りだし、未体験の加速を体感させる。2.6トンを超える巨体が初動から中低速域にかけて、レールのついたロケットみたいにドカーンとすさまじい駆け出し。
さらにアクセルを踏み込むとフレグランスも一緒に強まる気がするんだけど、まさかそんな色仕掛けみたいな魔法は使ってないよね……。「やりすぎだよ、先輩」みたいな(笑)。とはいえ、そこは大人のためのSクラス。若さに駆られた走りじゃない。フレグランスの匂いと同様に、AMGならではの手練れた加速なんですよ。
そもそもV8エンジンの性能をあますところなく使いきる手練れなのに、モーターでターボを手なずけ、魔法のようにその先の加速をブーストさせる。それこそフリーレンの攻撃魔法みたいに、何気なくてエグい(笑)。ハンドリングは懐が深いけれど、後輪操舵を効かせた芯の感じられる操作性があり、やっぱりフレグランス同様にスパイシー。
ドライブモードでいえばスポーツプラスのためのサルーンだけど、コンフォートや充電が優先されるバッテリーホールドといった“凪”のモードも素晴らしい。嵐の前の静けさを保ちつつ、ロールをさりげなく止める足回りといい、ステアリングインフォメーションもクリアで、ノーマルのSクラスやマイバッハとは方向の違う、凛とした洗練さを感じさせる。味わいでいえばマイバッハの“豚骨ダシ”に対する、“黄金の鳥ダシ”で勝負って感じかな。それでいてエンジンを引き立たせつつ、愛情の深さも隠さない。車両価格3500万円超えは伊達じゃないね。
もはやこのご時世、高級車のエンジンはモーターと協働しないとハイエンドとは言えなくなりつつあるけど、モーターはエンジンの魅力を引き立てる脇役にも徹せる。PHVならまだまだ可能性をひろげられるし、もっともっとエンジンを愛することができるはず。
マイバッハはすぐにでもEV化したいところかも知れないけれど、「ちょっと待った」をかけたい。このPHVシステムを搭載して、得意のV8豚骨ダシで最後の内燃機関のサルーンを完成させてほしいな。ありあまるポテンシャルをマイバッハ流の王道サルーンで体験してみたいよね。
Mercedes AMG S 63 E Performance
サイズ(全長×全幅×全高): 5335×1920×1515mm
エンジン:V型8気筒ツインターボ+モーター
排気量:3982cc
システム最高出力:802ps
システム最大トルク:1430Nm
駆動方式:4WD(フロントエンジン4輪駆動)
車両価格:¥35,760,000~
問い合わせ先/メルセデスコール
TEL:0120-190-610
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