手仕事を未来へつなぐ、美しきニット&ストール/アイルランド、リトアニア、ネパール【着る/知る Vol.171】

  • 写真・文:一史
Share:

服飾系大学に通う男子2名に先日会ったとき、「流行の服を買うのをやめて、長く着られるいいものだけを数少なく持つようになった」と最近の買い物傾向の話を聞いた。確かに2024年のいま服を新調するとき、「同じ買うなら意義のあるもの」「つくり手の顔が見えるもの」「未来につながるもの」を望む気持ちが頭をよぎる。社会的なSDGsの考え方や、コロナ禍以降の無駄をしない買い物の価値観が定着したのかもしれない。
そこで今回の「着る/知る」では、生産者の息遣いが漂う世界のニットとストールをクローズアップ。生産国はアイルランド、リトアニア、ネパール。編んだ人の名前が書かれたアイルランドのニット、自国の女性たちを職業支援するリトアニアのニット、フェアトレードに根づくネパールのストールだ。ローファイな服づくりのなかに、未来へと続く確かな道がある。

絶滅する技術!? アイルランドの手編みニット、ATHENA DESIGNS

DSC02936.jpg
「ダイヤモンド」「ケーブル」「かのこ」といった伝統のアラン模様が配された手編みセーター。¥64,900(税込)/グリニッジ ショールーム TEL:03-5774-1662
DSC02976.jpg
製品の紙タグには編んだ人の名前がある。ニットと同じ糸でタグを取りつける洒落心も巧み。

アラン編みのフィッシャーマンズニット発祥の地はアイルランドのアラン諸島。同国にあるコーク州で手編みされているのがアテナ デザインだ。ドニゴール州産ウールを使った正真正銘のアイルランド製と呼べる服である。紙タグに編んだ人の名前が手書きされ、つくり手を大切にする心も感じられる。機械編みでは表現できない深い凹凸こそが手編みの持ち味である。ただ編み手の高齢化に伴い、近い将来に伝統技術が途絶える心配があるようだ。日本で手編みニットをつくるアパレル関係者も、編み手の数が減っていることをよく嘆く。若い職人不足の問題は世界で共通している。
歴史あるアイルランドのニットをまだ持っていないなら、万が一手に入らなくなる前に一着入手しておくのも損はないはず。老人になっても似合う、真に一生モノのセーターなのだから。

---fadeinPager---

DSC02959.jpg
英国トラッドな茶系でトーンを揃えたクレイジーパターンのアランカーディガン。首周りを覆うクルーネックの前合わせもアランニットらしい個性だ。¥79,200(税込)/グリニッジ ショールーム TEL:03-5774-1662
DSC02966.jpg
「前衛派トラッド」とでも呼びたくなる見事な色柄の組み合わせ。ビンテージの本物カーゴパンツにも黒のスポーティな服装にも合う汎用性の高さが魅力だ。

---fadeinPager---

自国の女性たちを職業支援する、リトアニアのTHE NOTTY ONES

DSC03502.jpg
ブランドネームの下部に製造者の名前入りネームが取り付けられたザ ノッティワンズのニット。製品により製造者の写真と経歴説明つき紙タグも同梱される。

はじまりは3人の女性たち。東南アジアでファストファッションの製造現場を目にしてショックを受け、意義のある服づくりを行うべくザ ノッティワンズをスタート。彼女たちの出身国であるリトアニアとアメリカのニューヨークを拠点にして、自国で製造したニットを世界に発信している。編み作業を依頼するのは、仕事の少ない北部の地域で暮らす女性たち。職業支援にも結びついている。
編み手の写真つき紙タグには、「人の手でつくられたニットを大切に着てほしい」との思いも込められている。製品に使われる糸はエコテックス認証を受けたコットン、ミュールシングフリーのウールといった倫理面も考慮されたもの。編み機も活用された精密なニットは、モード服にも合わせられるほど都会的なスタイル。生産はローカルでもデザインがグローバルだからこそわたしたちの感性に響く。

DSC03524.jpg
ボクシーなシルエットの半袖コットンセーター。ザ ノッティワンズは基本的にウィメンズで男性にも似合うものがある。¥23,100(税込)/真下商事 www.mashimo-onlineshop.com

---fadeinPager---

DSC03531.jpg
上掲載の黒ニットの色違い。袖つけの肩部分が古典的なガンジーセーター(漁師用セーター)に似たつくりのドロップショルダー。

---fadeinPager---

DSC03550.jpg
エキストラファインメリノウールの、とろみのある柔らかなケーブルニット。リトアニア語で“調和”を意味する「HARMONIJA」と命名された一着。¥45,100(税込)/真下商事 www.mashimo-onlineshop.com

---fadeinPager---

ネパール最高峰のラグジュアリーな手織りストール、cosi

DSC03110.jpg
布を染料に漬けるディップダイ手法で染められたカシミヤ100%の大判ストール。植物のごとく瑞々しく美しい。¥107,800(税込)/SDI TEL:03-6721-1070 www.cositextiles.com

布好きなら思わず前のめりになる、味わい深い織りで洗練された色彩のストール。触れると最上級の品質であることに気づき再び唸らされる。この出来栄えだけでも購入するに十分な理由だが、生産背景のストーリーを知るとさらにほしくなってしまう。
世界的ファッション誌での編集経験のあるイギリス人女性が2009年にはじめたテキスタイルブランド、コジ。彼女がミャンマーを訪れた体験をきっかけに、フェアトレード精神に根付くブランドの設立を決意。素材は内モンゴル産のカシミヤ、ヒマラヤ産アルパカ、チベット産ヤクなどの高級品ばかり。この素材をネパールに運び、現地の機織りアトリエと契約して手織りで仕立てている。
西洋的ラグジュアリーさと、アジアの手仕事のゆらぎ感とが一体になった布のニュアンスは唯一無二。家の中でも包まれていたいほど、身体と心を癒やす心地よさに満ちている。

DSC03026.jpg
遠目に無地に見えても織り柄入りなのがコジのスタイル。凝り具合を強くアピールしないクワイエットラグジュアリーな品だ。
DSC03152.jpg
極薄なのでマフラーとして巻いても自然な印象になる。

---fadeinPager---

DSC03096.jpg
生地耳をデザインに活かしたナチュラルカラーのカシミヤ大判ストール。¥132,000(税込)/SDI TEL:03-6721-1070 www.cositextiles.com
DSC03103.jpg
ネームには「100% handweaven cashmere」の表記が。耳以外の生地端の、短いフリンジ処理もスタイリッシュだ。

---fadeinPager---

【画像】手仕事を未来へつなぐ、美しきニット&ストール/アイルランド、リトアニア、ネパール【着る/知る Vol.171】

絶滅する技術!? アイルランドの手編みニット、ATHENA DESIGNS

DSC02936.jpg
「ダイヤモンド」「ケーブル」「かのこ」といった伝統のアラン模様が配された手編みセーター。¥64,900(税込)/グリニッジ ショールーム TEL:03-5774-1662
---fadeinPager---
DSC02976.jpg
製品の紙タグには編んだ人の名前がある。ニットと同じ糸でタグを取りつける洒落心も巧み。

---fadeinPager---

DSC02959.jpg
英国トラッドな茶系でトーンを揃えたクレイジーパターンのアランカーディガン。首周りを覆うクルーネックの前合わせもアランニットらしい個性。¥79,200(税込)/グリニッジ ショールーム TEL:03-5774-1662
---fadeinPager---
DSC02966.jpg
「前衛派トラッド」とでも呼びたくなる見事な色柄の組み合わせ。ビンテージの本物カーゴパンツにも黒のスポーティな服装にも合う汎用性の高さが魅力だ。

---fadeinPager---

自国の女性たちを職業支援する、リトアニアのTHE NOTTY ONES

DSC03502.jpg
ブランドネームの下部に製造者の名前入りネームが取り付けられたザ ノッティワンズのニット。製品により製造者の写真と経歴説明つき紙タグも同梱される。

---fadeinPager---

DSC03524.jpg
ボクシーなシルエットの半袖コットンセーター。ザ ノッティワンズは基本的にウィメンズで男性にも似合うものがある。¥23,100(税込)/真下商事 www.mashimo-onlineshop.com

---fadeinPager---

DSC03531.jpg
上掲載の黒ニットの色違い。袖つけの肩部分が古典的なガンジーセーター(漁師用セーター)に似たつくりのドロップショルダー。

---fadeinPager---

DSC03550.jpg
エキストラファインメリノウールの、とろみのある柔らかなケーブルニット。リトアニア語で“調和”を意味する「HARMONIJA」と命名された一着。¥45,100(税込)/真下商事 www.mashimo-onlineshop.com

---fadeinPager---

ネパール最高峰のラグジュアリーな手織りストール、cosi

DSC03110.jpg
布を染料に漬けるディップダイ手法で染められたカシミヤ100%の大判ストール。植物のごとく瑞々しく美しい。¥107,800(税込)/SDI TEL:03-6721-1070 www.cositextiles.com

---fadeinPager---

DSC03026.jpg
遠目に無地に見えても織り柄入りなのがコジのスタイル。凝り具合を強くアピールしないクワイエットラグジュアリーな品だ。
---fadeinPager---
DSC03152.jpg
極薄なのでマフラーとして巻いても自然な印象になる。

---fadeinPager---

DSC03096.jpg
生地耳をデザインに活かしたナチュラルカラーの大判ストール。¥132,000(税込)/SDI TEL:03-6721-1070 www.cositextiles.com
---fadeinPager---
DSC03103.jpg
ネームには「100% handweaven cashmere」の表記が。耳以外の生地端の、短いフリンジ処理もスタイリッシュだ。

高橋一史

ファッションレポーター/フォトグラファー

明治大学&文化服装学院卒業。文化出版局に新卒入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。退社後はフリーランス。文章書き、写真撮影、スタイリングを行い、ファッション的なモノコトを発信中。
ご相談はkazushi.kazushi.info@gmail.comへ。

高橋一史

ファッションレポーター/フォトグラファー

明治大学&文化服装学院卒業。文化出版局に新卒入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。退社後はフリーランス。文章書き、写真撮影、スタイリングを行い、ファッション的なモノコトを発信中。
ご相談はkazushi.kazushi.info@gmail.comへ。