コミュニティのハブとなるブルワリー、異業種から参入したヒットメーカー、後進とともに歩むレジェンド、畑からビールを考えるつくり手……。多様な背景を持つ担い手たちにより、クラフトビールづくりは進化を続けている。いまトレンドを生み出すブルワリーを訪ね、その個性を紐解いた。
Pen最新号は『驚きと、よろこびのクラフトビール』。この数年で、クラフトビールをめぐる景色が大きく変化しつつある。ていねいにつくられたもの、多様性を包み込むもの、消費されない価値を持つもの。こうした価値観、考え方が世の中に浸透し、新しい時代の姿となっているが、クラフトビールは、まさにその流れの真ん中にあるものだ。世界を動かす驚きと、よろこびあふれるクラフトビールを体感しに行こう。
『驚きと、よろこびのクラフトビール』
Pen 2024年10月号 ¥880(税込)
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トートピア ブルワリー
―Point―
・ヘイジー&サワーIPAがシグネチャー
・口当たりいいオーツクリームIPAも得意
・タップルームのデザインが美しい
住所:愛知県長久手市杁ケ根795-1
TEL:0561-76-1744(タップルーム)
営業時間:11時~17時(土、日)
定休日:月~金
Instagram@totopiabrewery
2023年初め頃からビアギークをざわつかせ始めた、トートピア ブルワリー。醸造所名からは理想郷を意味する“ユートピア”の語感が漂うが、ファーストバッチのヘイジーダブルIPAは「アぺイロフォビア(無限恐怖症)」と、なんとも不穏なネーミングである。以降も主力商品のヘイジーIPAやサワーIPAが発売されるたびに、必ず末尾に付されるのが、“フォビア(恐怖症)”の文字。だがホップがたっぷりと使われたビールが多いため、強烈な苦みと清涼感がのどもとを過ぎれば、逆に身体に生気がみなぎる。ネーミングと味わいのギャップに興味をそそられるが、そこは代表・森田純矢のウイットだろう。
森田は、名古屋でクラフトビールが浸透していなかった14年にビアパブ、ブリックレーンを開業し、2年後にはインポーターも開始。同年にアメリカ出張で出会ったのが、当時の日本ではまだメジャーではなかったヘイジーIPAだ。
「以前、カリフォルニア州・サンディエゴにある醸造所、モダンタイムスで飲んだウエストコーストIPAにすごく感激したことがあるのですが、この時、西海岸で触れたヘイジーIPAにも、同じくらいの衝撃を覚えたんです」
森田はアメリカからヘイジーIPAを輸入することを決断する。地方都市の、しかも新興のインポーターということもあって、全米の100社近くにメールをしたのに、応じてくれたのはたった2社だけ。船だと日本まで1〜2カ月かかるため、おいしさは保てないと考え、毎月1000Lを飛行機で仕入れることにした。
「その後、コロナ禍前にアメリカの西海岸と東海岸のブルワリーを訪問してクリエイティブな現場を見たら、なんだかジェラシーを感じてしまって(笑)。ヘイジーIPAを取り扱うだけでなく、自分でつくりたい。醸造所を立ち上げようと思ったきっかけです」
自分はブルワリーをプランニングする側に回りたいと、醸造は友人で名古屋在住のアメリカ人、ユージーンに依頼。故郷のロサンゼルスのブルワリーで2年半、日本の醸造所で半年の修業を積んでもらった。そして22年9月に、トートピア ブルワリーが開業する。
森田の長年の思いもあり、シグネチャーはヘイジーIPA。最近はサワーIPAにも注力する。
「米国のサワーエールの潮流として、スムージーサワーとサワーIPAが挙げられます。後者はピュレを発酵させれば、さまざまなニュアンスが醸せるので、このスタイルを極めることにしました」
アメリカのクラフトビールシーンにおける昨今のラガービール回帰に鑑みて、トートピアらしいラガースタイル、ホップが香るウエストコーストラガーの醸造にも力を入れる。そう、森田はクラフトビールシーンを俯瞰的に眺めて、アウトプットができるクリエイターなのだ。その視線の先には、どんな景色が広がっているのか。次なる挑戦が待たれる。
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『驚きと、よろこびのクラフトビール』
Pen 2024年10月号 ¥880(税込)