80年代に細野晴臣が手掛けた名曲のひとつ、安田成美の代表曲『風の谷のナウシカ』。デビューから40年経ち、彼女は子どもたちが細野に夢中になる中、再びこの曲に向き合う。時を超えて輝きを増し、新たな物語が紡ぎ出す。
音楽の地平を切り拓いてきた細野晴臣は、2024年に活動55周年を迎えた。ミュージシャンやクリエイターとの共作、共演、プロデュースといったこれまでの細野晴臣のコラボレーションに着目。さらに細野自身の独占インタビュー、菅田将暉とのスペシャル対談も収録。本人、そして影響を与え合った人々によって紡がれる言葉から、音楽の巨人の足跡をたどり、常に時代を刺激するクリエイションの核心に迫ろう。
『細野晴臣と仲間たち』
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霧の向こうから、私の心のナウシカが浮かび上がってきます
いまから40年前の1984年、宮崎駿監督による映画『風の谷のナウシカ』のテーマソングとして細野晴臣・松本隆の名コンビによる同名曲が発表された。歌ったのは当時17歳だった安田成美。安田にとってデビュー曲であるこの作品は20.9万枚のセールスを記録するヒット曲となった。
「おふたりは本当に多忙で、スタジオに入ったのは真夜中でした。細野さんはド素人の私に『こんなふうに歌ったら歌いやすくなるんじゃない?』とピアノを弾きながらアドバイスしてくださって」
当時は映画のキャンペーンで地方を回ったり、テレビドラマや映画、CMにと目まぐるしい日々を送っていた安田。その後結婚して母となり、自分のペースで生活を紡いできた彼女がふたたびこの曲に向き合うきっかけを与えたのが、3人の子どもたちだった。
「イギリスに留学中だった次男のところへ遊びに行った時のことです。息子が『ママ、細野晴臣って知ってる? 友達から日本にはすごいミュージシャンがいるんだねって教えてもらって聴いたら無茶苦茶いいんだ』って言うんです。それから日本へ戻ると、今度は28歳の長男が『細野晴臣って知ってる? 『HOSONO HOUSE』ってすごいアルバムなんだよ』と。再び盛り上がっていたらその10日後に高校生の娘が『細野さんの音楽っていいよね』って」
3人がそれぞれ細野の音楽と出合い感銘を受けていたことを知り、安田自身も細野の作品を宝物を掘り起こすように聴き始めた。
「しばらくゆっくり暮らしてきたんですが、いまの私になにができるだろうって考えた時、細野さんとご一緒してみたいと思い、勇気を出して手紙を書いたんです。ナウシカのリメイク版をつくるアイデアは一案として書いたのですが、細野さんにも共感していただき、実現することになりました」
緊張して臨んだ収録はあっという間に終わったという。
「事前に練習しておいてと言われた曲があったんですが、現場に行ったら全然違うアレンジで。ほんの数回歌ったところで、これからちゃんと歌えるかな、と思っていたら『できたできた。大丈夫』とおっしゃる。不安な気持ちを抱えて帰ったんですが、数カ月後、仕上がった曲を聴いたら本当に素晴らしくて。霧の向こう側に、新しい自分だけのナウシカの映像が浮かび上がってくるようでした」
80年代の音楽をいまの時代にどう表現できるのか、「今回ほど没頭したことはなかった」と細野も言う。「人はなぜ傷つけ合うの?」という問いは時を経て、私たちの心を揺さぶり続ける。
Column:安田成美が選ぶ、細野晴臣の3songs
「ローズマリー、ティートゥリー」(収録:『HoSoNoVa』)
彼女が去った部屋の窓で雫が泣いている、そんな光景を想像して聴いています。圧のない居心地の良さが好き。
「ろっかばいまいべいびい」(収録:『HOCHONO HOUSE』)
子守唄のように、大好きな女性を慰める曲。細野さんの素敵な声でこんなこと言われたら参っちゃうな。
「All La Glory」(収録:『Heavenly Music』)
ザ・バンドのカバー曲。あの世に行った父親が幼い娘のもとに降りてきて1日だけ遊ぶという訳詞がとても素敵
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