ヴァシュロン・コンスタンタンからピアジェまで、秒針のない2針のシンプルウォッチ3選

  • 写真:渡邉宏基(LATERNE)
  • 文:並木浩一
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1.VACHERON CONSTANTIN(ヴァシュロン・コンスタンタン)
パトリモニー・マニュアルワインディング

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手巻き、18KWG、ケース径39㎜、パワーリザーブ約42時間、アリゲーターストラップ、3気圧防水。¥3,740,000/ヴァシュロン・コンスタンタン TEL:0120-63-1755

創業270周年を迎えた老舗メゾンが問うのは、無駄を削ぎ落とした中に宿るタイムレスな美しさと唯一無二のラグジュアリーだ。7.7㎜のスリムなホワイトゴールド製ケースには、サンバーストサテン仕上げの文字盤と、1950年代の時計から着想を得たというバー&クサビ型のインデックス、カウンターのない細身の長短針を備える。そこにオリーブグリーンのストラップが個性を添える。

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2.PARMIGIANI FLEURIER(パルミジャーニ・フルリエ)
トンダ PF マイクロローター

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自動巻き、SS×PTケース、ケース径40㎜、パワーリザーブ約48時間、シースルーバック、SSブレスレット、100m防水。¥3,861,000/パルミジャーニ・フルリエ eメール:pfd.japan@parmigiani.com

日付窓もない美しい余白に映えるバーリーコーン(麦の穂)パターンのギョーシェは、職人が一つひとつ手作業で仕上げたもの。そこに添えるデルタ型長短針とアプライドインデックスは18Kゴールド製。プラチナベゼルで縁取られたダイヤルのカラー“ゴールデンシエナ”は、イタリア・シエナの街で産出される土からつくられる顔料に由来した伝統色。

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3.PIAGET(ピアジェ)
アルティプラノ オリジン ウォッチ

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手巻き、18KWGケース、ケース径38㎜、パワーリザーブ約43時間、アリゲーターストラップ、3気圧防水。¥2,662,000/ピアジェ コンタクトセンター TEL:0120-73-1874

ポリッシュされた長いバトン型の時分針に、偶数をダブル、奇数はシングルで交互に配置した細い線のバーインデックスをセット。ピアジェのシグネチャーコレクションである「アルティプラノ」の、1957年のファーストモデル誕生時の面影を残す“オリジン”は、ピュアなデザインと卓越した薄型技術の結晶。自社製薄型ムーブメント「430P」を搭載する超スリムなドレスウォッチだ。

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秒針もない時分針だけの2針ノンデイトは、究極のシンプルウォッチだ。そのピュアさ故にデザインの巧拙が目立つ、各社の腕の見せどころでもある。高級スポーツウォッチが流行している足元で、いまさまざまなブランドから佳品が続々登場し、注目されている。

ファッション業界で拡大した新潮流「クワイエット・ラグジュアリー」の影響も否めない。腕時計デザインの“クワイエット”は、ミニマルな線と図形の構成でどれだけの完成度を描けるのかという要求に応えることだろう。切り詰めた機能が、時計の存在感を逆説的に際立たせなければならない。

象徴的な出来事は昨年、腕時計のアカデミー賞とも称されるGPHG(ジュネーブ時計グランプリ)で、「タイム・オンリー」部門が新設されたことだ。GPHG財団による審査対象の定義は「2針または3針で宝石のセッティングがなく、時、分、秒のアナログ表示のみの時計」。秒針は許容しているがクロノグラフやコンプリケーションなどの機能はNGなので、ジュエリーウォッチを除く2針ノンデイトは候補の資格がある。このカテゴリーは今後注目が増すであろう「新ジャンル」である。

興味深いのはGPHGでも広い解釈の余地を残していることだ。価格の制限はなく、素材もなにを使おうと自由。 ステンレス・スチールでもいいが、ゴールドやプラチナ、セラミックやカーボンでもいい。そう、“ラグジュアリーであることを否定しないミニマル”がいま、2針ノンデイトの真髄なのである。

並木浩一

1961年、神奈川県生まれ。時計ジャーナリスト。雑誌編集長など歴任し、2012年より桐蔭横浜大学の教授に。近著に『ロレックスが買えない。』。

※この記事はPen 2025年4月号より再編集した記事です。