【音楽ジャーナリスト・柴 那典が語るドリカム】最新アルバムから紐解く、ドリカムの功績と“現在地”

  • 編集&文:加藤一陽
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『THE BLACK ○ ALBUM』をいち早く試聴した音楽ジャーナリスト・柴 那典。さまざまなメディアで音楽やサブカルチャー分野を中心に活動する彼の視点から、ドリカムが音楽シーンで果たした役割と、最新アルバムから読み解けるドリカムの“現在地”を解説してもらう。

DREAMS COME TRUEが9年ぶりとなる待望の最新アルバム『THE BLACK ○ ALBUM』をリリースする。J-POP が新たな地平に立ついまだからこそ、ドリカムが鳴らす鐘に耳を澄ませ、その“引力”を存分に語り合おう。

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J-POPを拡張する、ドリカムというテーマパーク

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柴 那典●音楽ジャーナリスト。1976年、神奈川県生まれ。ロッキング・オン社を経て独立後、雑誌・Web含めさまざまなメディアで音楽やサブカルチャー分野を中心に執筆。著書に『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』『ヒットの崩壊』『平成のヒット曲』、共著に『渋谷音楽図鑑』など。

膨大な数のロック/ポップ・アーティストへのインタビューを通した視点から、ヒット曲や音楽シーンを分析する柴那典。ドリカムに対する印象を訊ねれば、「やはり、ザ・J-POP」と語る。

「サウンドプロデューサーの男性がいて、歌姫がいて、しかもボーカリストがクリエイティブも担う。そういうバンドを仮に“ドリカム的”とすると、現代を代表するのはYOASOBI。そしてその前の世代は、いきものがかりです。この2組、どちらも自身の音楽をJ-POPと自称する。ただ、その意味合いは少し違うんです」

J-POPは日本のポピュラーミュージックを意味するが、意味合いが違うとはどういうことか。

「いきものがかりは、『洋楽ロックこそが格好いい』という風潮があった世代で、そういうバンドたちに囲まれて下積み時代を過ごしていた。その中で『自分たちは歌謡曲を継ぐ存在として、自信を持ってJ-POPを名乗る』と。一方でYOASOBIは、日本発のボカロ文化を出自にして海外で人気です。日本発祥のポップスだからJ-POPだと。音楽性も意味も異なりますが、海外文化との関係性を踏まえてあえて標榜するものをJ-POPと定義付ければ、ドリカムはその流れの先人と捉えることができますよね」

そのJ-POPへ対する視点を踏まえた上で、『THE BLACK ◯ ALBUM』から感じられたことを尋ねよう。柴がまず心をつかまれたのは、「吉田さんの音楽のリテラシーの高さと時代をつかむ感覚のすごさ」とのことだ。

「『Kaiju』にはシザやソランジュのような現代のR&Bの匂いや、ロザリアの楽曲のようなスピリチュアルな雰囲気も感じる。吉田さんがこれらを参考にしたかどうかはわかりませんが、時代の空気をなんとなくでつかみ、そこに、これまでドリカムでやってきたことや、サウンドのトレンドなどを感覚的にミックスしているんじゃないか。吉田さんが人生を通して吸収してきた音楽の総量。それ自体がドリカムというバンドの強みなんだろうなと感じましたね」

話題がアルバム全体の構造へ及ぶと、「キーワードになるのは、没入感」という分析が。

「51分間ノンストップで聴ける“ひとつなぎ”の構造も含め、イマーシブな体験ができました。ただ、14曲中10曲がタイアップ曲で、先に配信されている曲。それを“CDファースト”で出すってどういうこと?って思いますよね」

今回のアルバムは「CDファーストチャレンジ」と銘打ち、配信などに先駆けて、まずはCDのみで発売される方針が取られている。

「ビジネス的にはデメリットも大きいはず。というのも、CDのみで先行発売した例としては、2 01 8年にミスター・チルドレンが出した『重力と呼吸』を思い出します。この時は、配信よりも3カ月ほど先にCDをリリースした。素晴らしいアルバムですが、配信されたときにはコアファンが既にCDを聴いているから、反響にタイムラグがありました。熱量の高い感想や考察が、URLとともにSNSで広まることで話題性が生まれるので、作品としていかに衝撃的であっても、CDのみではなかなか広まらないんです」

“バズるかどうか”の指標で考えると、時代と相反するような施策だと思えるコメント。しかし柴は「だからこそ、かえってメッセージ性が感じられる」と続ける。

「ここまで述べた部分は、ドリカムチームはわかっていると思う。でも、それでもやるんだという意思を感じます。ではなぜそこまでこだわるのかを考えると、CDというメディアが持つ音質や1枚完結などの魅力を再定義する意図はあるにせよ、単純にそれだけではないはず。僕は、本作を“ドリカムというテーマパーク”への招待状だと推測しています」

その発言の趣旨をうかがえば、「ワンダーランドを核に考えると腑に落ちるんですよね」と続ける。

「現在のドリカムは、彼らの楽曲を軸にしたテーマパークのような空間をつくり出し、非日常的な体験をさせるワンダーランドが強み。彼らもそれを自負していると思いますし、ファンもそのことを知っている。熱心に追っていない一般層でも、ドリカムがワンダーランドというすごいライブを行っているバンドだということは認知している。そうなると、『9年ぶりのアルバム!』と打ち出したとき、コアファンにとって待望の作品であると同時に、ライト層にとってはワンダーランドに紐付いたふわっとしたイメージとともに聴く作品となる。そうして本作を聴いてみると、1曲目から最後までノンストップで楽しめる構造によって没入型のひとつの体験ができる。つまり、コアファンには新作として純粋に楽しんでもらいつつ、ライト層にはドリカムの世界への招待状になり得る。彼らはアルバムとしての作品性を尊重した上で、もうひとつの強みである素晴らしいショーに導くきっかけを生み出したのだと思います」

本作は上質な音楽作品であり、かつ音楽、ライブなどトータルで楽しめるテーマパーク=ドリカムへの招待状。そう捉える柴は、ワンダーランドというライブそのものが次世代に影響を与えているコンテンツだと見ているそうだ。

「アーティストが自分たちの幻想や想像力を膨らませてものすごい規模の異空間をつくり上げる公演は、ミセス・グリーン・アップル、前の世代だとSEKAI NO OWARIが話題になりました。それらのルーツ的なライブの在り方が、ドリカムのワンダーランドにあると思うんです」

物語性やスケール、そして意義。それらを総合的に備えた、ひとつの表現としての大規模コンサート。現在では人気バンドが次々と開催するようになったコンセプチュアルなライブの第一人者が、ドリカムだというわけだ。柴はドリカムの今後にこう期待を込める。

「吉田さんは、ドリカム50周年とワンダーランドが重なる年をとても楽しみにしていますよね。それが実現できたら、年齢的にもキャリア的にも、J-POPアーティストがたどり着くことができる最高地点。キャリアの集大成をそれほど華々しいかたちで見せることができれば、後続たちの夢です。音楽を続けた先になにがあるのか、どう続けていくのか。そんなことを考えているアーティストたちにとってのロールモデルになると思うんですよね」

読者に薦めたい、ドリカム作品 

『THE LOVE ROCKS』

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2006年発売の13枚目のアルバム。柴が薦める理由は、アルバム収録曲で05年2月にシングルリリースされた「何度でも」のメッセージ性にあるという。「諦めずに、何度でも立ち上がる」という趣旨の詩は、当時の柴をはじめ、不況や国際情勢で閉塞感が漂う当時の国民の心を鼓舞したのだそうだ。

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