ドリカムの音楽を語る際に、吉田美和の歌声や詩について言及されることは少なくないが、本企画では改めて、サウンドメイクの中枢として音楽をかたちづくってきた中村正人のベースに着目する。語るのは、ロックの現場で音を鳴らし続けてきたOKAMOTO’Sのハマ・オカモトと、SUPER EIGHTの一員としてポップスの最前線で音楽を届けてきた丸山隆平。旧知の仲であり、同じパートを担うふたりだが、フィールドが異なるからこそ違って見える景色もあるだろう。ベーシストの目線から、中村の魅力を紐解く。
J-POP、この言葉が世に生まれたばかりで本来の意味を持っていた頃、平成という新しい時代の幕開けを象徴する存在として迎えられたのが、DREAMS COME TRUEだ。J-POP が“日本発”という新たな地平に立ついまだからこそ、ドリカムが鳴らす鐘に耳を澄ませ、その“引力”を存分に語り合おう。
『いまこそ、ドリカム!』
Pen 2026年4月号
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右:ハマ・オカモト⚫︎1991年、東京都生まれ。ロックバンド OKAMOTO’S のベーシスト。世代屈指の実力派として、さまざまなアーティストのサポートも務める。高いトークスキルを活かし、テレビ番組のナビゲーターとしても活躍中。
丸山:マサさんとの接点は、僕らの番組『EIGHT-JAM』やマサさんが司会する音楽番組などで、何度かお会いした。だから気さくな人柄は知っているけど、やっぱりレジェンドな印象。今日は「僕はなにを話せるだろう」って震えながら来た(笑)。ただ今回改めてドリカムの曲を聴き直してみたら、それぞれの曲を聴いていた時期をめっちゃ思い出すよね。たとえば「7月7日、晴れ」とか、よく流れていた時代を思い出した。テレビやラジオでかかっていたから、生活の中にいつの間にか入っていたんだよね。自然に当時のことが思い出される。
ハマ:僕はプライベートでお会いしたり、対談もさせていただいたり。個人的にドリカムを初めて認識したのは「何度でも」辺り。ベース云々は関係なく、好きなドリカム曲となると、ベタだけど「やさしいキスをして」ですね。この曲はマサさんがすごくハモるんですけど、ライブで聴くと“ふたりでドリカム”って印象がより強くなる。より“音楽的なもの”として認識したのは「決戦は金曜日」で、音楽性を紐解くならその辺りの曲から語るのがいいかな……。
丸山:「決戦は金曜日」はもう、完全に“あれライク”な曲ね。
ハマ:そう。アース・ウィンド・アンド・ファイアーとシェリル・リン。僕はワンダーランドをみんなに観てほしいと思っていて。「決戦は金曜日」が流れると会場の雰囲気が変わるの。それにあのイベント自体“大衆性を持ちつつ、やりたいことをやる”の究極形ですよね。そもそもあの規模のライブを定期的にやるのは普通じゃないし、演奏するだけじゃなく、最終的に飛ぶ(笑)。それにマサさんって「決戦は金曜日」を演奏する前に、「次はみんなが好きな曲やるよ、これ聴きたいんでしょ、はーい!」とか言うんですよ。その煽り方もすごくないですか?
丸山:それ自体が究極の“特効”や(笑)。「決戦は金曜日」で言うと、ブラックミュージックのレイドバック感がすごく好きなの。それって、知らない間にドリカムに植えつけられていたんじゃないかな。そもそもJ-POP自体、ミクスチャーじゃない? いろんな音楽を、いろんな人たちが自分たちなりに日本の音楽に落とし込んできたわけで。その中で純度の高いブラックミュージックっぽい音楽を知らずに取り込んでいたのって、ドリカムのおかげだよね。聴き直して、改めて「こんな上質な音楽を聴いてたんだ」って。
ハマ:その感じも含めて、“感”が強すぎますよね。
吉田美和の歌を立たせるため、“ドリカムの中村正人”に徹する
丸山:今回のお題である「ベースを聴こう」と思って家でドリカムの曲を流していたんだけど、やっぱ歌に意識を持っていかれてさ。それでハッとして「いや、ちゃうちゃう。今回はベースや」って思う瞬間が何回もあった。でもそれって、そうやって聴いてしまうルートをマサさんにつくられているってことなんだよね。「曲の中で自由に泳ぐ彼女の歌声を聴きなさい」って。この人の歌を支えたいとか、聴いてほしいみたいな惚れ込み方が編曲やベースに反映されているんだなって再認識した。
ハマ:マサさんって、かなり早い時代から打ち込みで曲をつくっているから、昔から4弦ベースの音域よりも低い音域を用いている。だから自然と5弦とか6弦の、多弦ベースを使うようになったらしくて。僕は中村正人で初めて多弦ベースを弾く人を見ました。あんまりいないですよね? マサさんと初めて対談した時、マサさんが「なにも知らない人に『多弦ベースなんか使う必要ないだろ』と言われるんだけど、聴けばわかるだろ!」って文句言っていて(笑)。つまり必要だから弾いているし、「この帯域を出すのはやめよう」って後ろ向きに考える人でもない。しかも派手なプレイを見せたいというよりは、「ドリカムとしての中村正人に徹する」って意識が強い。我々も同じパートだから言えることだけど、歌うのにベースってすごく重要な楽器のひとつじゃないですか? だからそれもわかるというか。
丸山:責任ある。イヤだよね〜。
ハマ:だからマサさんって、バンドマンではなくプロデューサー、スタジオミュージシャン然としたベースワークが多い。
丸山:それで言うと、すごくシンセ的なベースの使い方をしていることを再認識した。生のベースを加工したり、オクターバーを使ったりしているじゃない。トラックに寄り添い、かつ歌を立たせるような、確かにスタジオミュージシャン然としたベースの印象があったな。一方で、ネットでハマくんとマサさんの対談記事を読んだら、ハマくんが「IT’S TOO LA
TE」のベースについて言及していたから聴いてみたの。そうしたら本当にすごい動きをしていて。
ハマ:いきなりああいう演奏をするような人なんですよね。ドリカムってタイトルに「モンキーガール」が付く曲のシリーズがあるんだけど、そのきっかけとなった「沈没船のモンキーガール」という曲はすごいですよ。丸さん好きだと思うな。一発録りだと思うけど、多弦ベースで和音を弾いていて。ちょっと曲かけてみましょうか。
丸山:……。おぉ。歌に寄り添ってずっとボーカルラインを弾いてる……ヤバいな。ちなみに個人的には『ATTACK25』もお薦め。アルバム通してベースがいちばん耳に入りやすい。改めてマサさんのベースに注目するなら、この作品はすごくいいと思う。
ハマ:マサさんって全部をへっちゃらな感じでやっちゃうけど、あんなに弾ける人ってそんなにいない。ライブを観ていると、やっぱ信じらんないですね。
丸山:ドリカムの楽曲をカバーするとマサさんのすごさがわかるかもな。大学のサークルとかでも、洋楽のカバーをしていないでドリカムをやってみてほしい!
ハマ:あれだけうまい歌の横で、ベースを弾きながらバラードの副旋律をハモるって尋常じゃない!
丸山:そうやねん。しかも、カバーするにはうまいボーカルも必要だから、やっぱりできひんねん。どっちも無理やねん。
ハマ:「やさしいキスをして」なんて、僕は100万回弾いたって緊張すると思います。
丸山:あのベース、ヤバいもんなあ。ずれたら絶対アウトやし。専任でベース弾いていたって間違えることはあるからね。すごさを人柄とポップで隠しているよね。
ハマ:誰にも気付かれないようにしている。でも実際は同じポジションの人はいないんですよね。
唯一無二で走り続ける、ボーカルと多弦ベースのバンド
「美和さんの歌を聴くルートを、マサさんにつくられている」と語る丸山隆平。
丸山:“縁の下の力持ち”という立ち位置を35年以上続けてきているし、ずっとブレずに“ドリカム”でい続けていること自体にすごみがある。ディスコ的な感じの曲も、シンセ強めのラップっぽい曲も、ちゃんとドリカムの中でやるでしょ。SUPER EIGHTは去年デビュー20周年だったんやけど、やっぱり「エイトっぽさを守り続けながら、いかにファンを置き去りにせずにバンドを進化させるか」は意識していて。でも、長くやればやるほど手札も少なくなっていくもので。ドリカムはその手札を広げている感じがするのね。きっとおふたりの中でも大変なことがたくさんあっただろうけど、それをファンの方々と一緒に乗り越えて、いまここにおるっていうのは、奇跡だと思う。
ハマ:3人だった時代を経てね。時代によって変遷もあるけど、でもやっぱりドリカムは新しいことをやる側面もありつつ、根幹にはおふたりが好きだと思うものを変えずにやることを重要視している感じがします。それでいて、時代の空気を閉じ込める。ドリカム以外にあんまりない。そもそもこの形態自体、他にない。
丸山:確かに、ボーカルと多弦ベースのふたり組っていないよね。
ハマ:それを「すげえ」って認識すべきですよ。あんなに歌がうまい人はそうそういないし、美和さんの歌は最初から完成されていて、本当にずっと変わらない。そして吉田美和が吉田美和であり続けるには、中村正人が絶対に必要。しかも男女で35年以上一緒にやっているんでしょ? すごすぎる。で、せっかく“中村正人リスペクトコーナー”なわけだから(笑)、Penの読者にはしっかり言わせてほしい。ドリカムを語るならマサさんを語らないと! 美和さんだけじゃなくね!
丸山:美和さんのことだけを言うのは“ニワカ”だね(笑)
ハマ:ドリカムを語る上で歌だけに触れるなんて、まだまだ。
丸山:こういうの、マサさんご本人は絶対に言わないよな(笑)
ハマ:僕らみたいな距離感の人間がベタベタに褒めなきゃいけないタイミングがある。だからあえて言わせてほしいですね。
「吉田美和が吉田美和でいるには、中村正人が絶対に必要」ハマ・オカモト。
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ハマ・丸山が薦める、中村正人のベースが光る作品たち
『ATTACK25』
デビュー25周年となる2014年発売の17枚目のアルバムで、丸山が「ベースに注目したいならこの一枚」と推す。全編を通じエレキ、シンセ、アコースティックと多彩なベースプレイが満載だ。
「沈没船のモンキーガール」
1995年発売のアルバム『DELICIOUS』収録。その後続く“モンキーガール”シリーズの始祖となる曲だ。吉田が初めて編曲した曲としても知られている。歌に寄り添う中村のベースが聴きどころ。
「やさしいキスをして」
2004年リリースのシングル。ドラマ主題歌としてロングヒットを記録し、ファンの間でも人気の高いロッカバラード。ボーカルを前面に押し出したアレンジだけに、中村のベーシストの真価を感じ取ることができる。
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