こんなクルマに乗ってみたい。人の心を奪う、「コンセプトカー」はなぜつくられるのか?

  • 文:小川フミオ
Share:
ポルシェがかつて発表したコンセプト「パナメリカーナ」

クルマのなかで最もハッとさせられるデザインとはなんだろう。それは「プロトタイプ」かもしれない。自動車メーカーは時として、自動車ショーなどで、プロトタイプ、つまり試作を一般人の私たちに公開することがある。

event_260109006.jpg
ダイハツ「ハイゼットトラックジャンボ・スタークライマー」は2026年の東京オートサロンで公開されたコンセプト。写真:ダイハツ

プロトタイプを見せる目的はいくつかある。ひとつは、その先に発表予定の新車が受け入れてもらえるかの”さぐり針”。この目的のために、新車のデザインが決定してからプロトタイプとして発表する場合がある。

もうひとつの目的は、新車開発の方針決定のためのもの。メーカーに多少の迷いがある場合、プロトタイプの評判をパラメターとして活用する。

SP00380011.jpg
日産「Be-1」は1985年の東京モーターショーでショーモデルとして出展されたところ大人気で87年の発売に際して予約が殺到。写真:日産自動車

おもしろかったのは日産自動車の「Be-1」だ。小型車「マーチ」のモデルチェンジが遅れたため、「つなぎ」のショーカーとしてつくったところ、大評判で量産化することになった。ただし例外。

新車の開発はもっと慎重だ。方向性が決まると、パワートレインやシャシーなど使うパーツも固定される。内外装ともに素材メーカーからの提案もデザイナーのパレットに載せられる。 

P90569289_lowRes_mini-farbe-und-mater.jpg
ミニのカラー&マテリアル担当デザイナーがサプライヤーから持ち込まれた素材を検討中。写真:MINI

同時に、ユーザーターゲットが策定される。そこから、新車のプロジェクトは進む。

過去のマーケティングデータ、サンプルユーザーを呼んで現在のモデルの評価と未来のモデルへの期待など聞くクリニック、コンサルティング会社の意見なども聞く。

データや外部の声に比重を置きすぎると、つまらないデザインになったりする。 

etypecoupeheritage01.jpg
もっとも美しいクルマと評価されることの多いジャガーEタイプ。写真:Jaguar

「名車」と長く評価されるモデルは、(おそらく)あまりマーケティングデータに頼らないでつくられている。

たとえば、フィアット「ヌオーバ500」(1957年)、フェラーリ「365GT4デイトナ」(68年)や同「206GTディーノ」(67年)、ジャガー「Eタイプ」(61年)、アストンマーティン「DB4GTザガート」(60年)、「ランドローバー」(47年)、ポルシェ「911」(63年)、それにシトロエン「DS」(55年)や同「SM」(70年)……枚挙にいとまがない。

90年代になって自動車産業がグローバル化し、ひとつのモデルで多くの市場をカバーする方針が打ち出されると、メーカーは慎重になる。

「一台コケたら企業の浮沈にかかわる」などとも言われるようになったのだ。 

P90641218_lowRes_vision-bmw-alpina-sk.jpg
26年に公開された「ビジョンBMWアルピナ」のアイディアスケッチ。写真:BMW

おもしろいのは、そこで保守的なデザインを選択するメーカーもある一方、あえて勝負に出るメーカーがあることだ。

昨今のBMWは好例。万人が納得する審美性をあえて避けているきらいがある。好きか嫌い、意見がわかれるデザインこそ、プレミアムブランドにふさわしい、と考えているのだろう。 

P90641208_lowRes_vision-bmw-alpina-be.jpg
ショーカーなのかプロトタイプなのかはっきりしないが伊コモ湖畔「ビラデステ」でのコンコース(コンクール)に出展されて話題を集めた「ビジョンBMWアルピナ」。写真:BMW

そこが私(たち)が自動車デザインの魅力にとりつかれる理由だと思う。

かつてはピニンファリーナ一択だったフェラーリだが、12年の「F12ベルリネッタ」を最後に、社内のチェントロスティーレ(デザインセンター)がデザインを担当することになった。

実際は、おおっぴらにされてはいないが、外部のデザインスタジオが各社に協力しているケースは多い。

本社スタジオ数チーム、(メーカー自身の)海外スタジオ、社外スタジオ、フリーのデザイナーが、デザインを決定する社内コンペに参加していたりする。 

P90641262_lowRes_vision-bmw-alpina-do.jpg
BMWのデザインスタジオでヘッドオブデザインのアドリアン・ファン・ホイドンク氏(左端)らが「ビジョンBMWアルピナ」のデザインを検討中。写真:BMW

その成果は、プロトタイプのかたちで、私たちに(うれしい)驚きをもたらしてくれたりする。

私たちは、プロトタイプと、そのあと実車との間にあるギャップに一喜一憂してきたのも事実。プロトタイプと新車、自動車メーカーは私たちを二度楽しませてくれるのだ。

MINI × デウス・エクス・マキナ

c73952f3cd443a73919e5a6d439979415a02188d.jpg
P90613934_lowRes_mini-john-cooper-wor.jpg
コンセプトカーと量産車。左:MINIのデザインスタジオにおける「デウス・エクス・マキナ」とのコラボレーションモデルの製作風景。 右:完成した「THE SKEG」(右)と「THE MACHINA」。 写真:MINI

シトロエン AMI

969447ca8be5e1572624cb8da15996a07e2a6b65.jpeg
9e1419725ba91433f351f913d2054c5aa4bc9ecf.jpeg
コンセプトカーと量産車。左:2019年にシトロエンがパーソナルモビリティの提案として発表した「AMI ONE CONCEPT」。 右:2020年に発売された「AMI」(フランス語で友だちの意)は欧州でよく見かける。写真:Citroen

トヨタ RAV4

RAV4_23_s.jpg
4d2bead3fdea96cc4716aff662d71289bfdbe611.jpg
コンセプトカーと量産車。左:トヨタが1989年に楽しさを前面に押し出したSUVのコンセプトとして発表した「RAV-FOUR」。 右:94年に発売されて大きな人気を博した初代トヨタ「RAV4」。写真:トヨタ自動車

ホンダ エレメント

f8a2d7a16cc28287016d49885862983ebdc2b757.jpeg
ea92e48e7680737eec30be7d649acd3b54639eac.jpg
コンセプトカーと量産車。左:ホンダが2002年に主に米国向けのSUVとして発表したコンセプト「モデルX」は完成度が高い。 右:モデルXをベースにホンダは「エレメント」を開発し2002年に実際に発売。写真:Honda

ポルシェ パナメーラ

1989-porsche-panamericana-concept.jpeg
The_new_Porsche_Panamera.jpg
コンセプトカーと量産車。左:1989年にポルシェが発表したコンセプト「パナメリカーナ」は911をベースに少量生産を意図したスポーカーでかなり魅力的だった。 右:「パナメーラ」の名で2009年に発売されたのは4ドアモデルで、クルマとしての出来はよいものの、パナメリカーナを期待していただけにややガッカリだった。写真:Porsche

小川フミオ

モータージャーナリスト

自動車を中心に活躍するジャーナリスト/ライター。自動車誌やグルメ誌の編集長を務めた後、フリーランスとして活動。新車の試乗記をはじめ、グルメ、ホテル、人物インタビューなど、多岐にわたるジャンルの記事を独自の視点で執筆し、雑誌やウェブメディアを中心に寄稿している。

小川フミオ

モータージャーナリスト

自動車を中心に活躍するジャーナリスト/ライター。自動車誌やグルメ誌の編集長を務めた後、フリーランスとして活動。新車の試乗記をはじめ、グルメ、ホテル、人物インタビューなど、多岐にわたるジャンルの記事を独自の視点で執筆し、雑誌やウェブメディアを中心に寄稿している。