クルマは、単なる移動手段ではない。日々の暮らしに彩りを与え、人生をより豊かにしてくれる存在でもある。そう語るのが、フォルクスワーゲン グループ ジャパンのマーティン・ザーゲ代表取締役社長だ。愛車の「ゴルフGTI」への思いから、クルマ本来の楽しさ、そしてフォルクスワーゲンが目指す豊かなカーライフについて話を聞いた。
自動車史に残る、VW「ゴルフGTI」
自動車史に確実に残る一台が、フォルクスワーゲンの「ゴルフGTI」だ。デザインよし性能よし、なによりコンセプトが秀逸だった。
フォルクスワーゲンが1976年に発表し、現在にいたるまでモデルチェンジを繰り返し、つねに”ホットハッチ”の王座に君臨しつづけているGTI。フォルクスワーゲン グループ ジャパンのマーティン・ザーゲ社長も、そんなGTIを愛するひとりだ。彼はこう語る。
「GTIは1976年の初代以来、フォルクスワーゲンブランドそのものを象徴する存在です。スポーティでありながら実用的で、安全で、信頼性も高く、それでいて手の届く存在でもある。その絶妙なバランスこそがGTIであり、フォルクスワーゲンらしさなのです」
ゴルフGTIが登場したときに衝撃的だったのは、クリーンでコンパクトで機能主義的なスタイル。同時に、アウトバーンでは大型セダンを追い抜く性能ぶりを目指した製品づくりのコンセプトが衝撃的だった。
ものづくりへの質実剛健な姿勢
ザーゲ社長は、20年以上にわたりフォルクスワーゲングループの主要ポストを歴任。直近ではドイツでVWブランドの乗用車の販売統括を経て戦略価格計画部門責任者を務めてきた。2025年に日本におけるブランドディレクターに就任し、26年5月から代表取締役社長も兼任する。
クルマが大好きと言い、東京での通勤に使うのは、最新のゴルフGTI。市街地でもよく映えるクリスタルアイスブルーの車体について、「ライトブルーとGTIの赤いアクセントの組み合わせは完璧だと思っています」と満足げな表情を浮かべる。
現在、第8世代になるゴルフGTIは、最高出力195kWの2リッターエンジンを搭載。グリル内の「GTI」の3文字や、そのグリルを取り囲むような赤いラインなど、アイコン的に守っている。
ゴルフGTIをファンが愛する理由は、製品づくりのポリシーが揺らいでいないこと。最大の特徴は、初代から50年間にわたって、前輪駆動方式にこだわってきた点だ。どれだけパワーが上がっても、それをきちんと吸収する技術を採用する。
「高性能車は全輪駆動」という傾向が世界の自動車界にあるものの、それには「ゴルフR」で対応。並行して、VWは前輪駆動方式のゴルフGTIを守りつづけてきた。理由は、ドライビングキャラクター。GTIのような前輪駆動方式と、4つの車輪を常に駆動する方式とでは、いわゆる”味”が変わってしまう。
製品の個性を理解し守れる人たちを社内に抱え、それを価値として消費者に提供するのが、いかにもドイツのモノづくりだ。それを理解している人たちがGTIを常に支持している。
細部に宿る、GTIのこだわり
GTIを仕上げの面から見た場合、赤いラインのほかにも、チェック柄の布張りシートも、VWが大事にしている伝統だ。いまのゴルフGTIにもちゃんと用意されている。
でも、知らないひとには、ふつうのゴルフと見分けがつかないぐらいの差。そこがよい。「わかる人にはわかる」という差異が、オーナーのプライドをくすぐるのだ。
デザインとともに、ゴルフGTIは“乗ってなんぼ”のクルマである。私が個人的に強く記憶に残っているのは、08年の第6世代だ。デュアルクラッチの変速機搭載が衝撃的だった。デュアルクラッチとは、クラッチペダルはない。が、一般のAT車でおなじみのトルクコンバーターは使っておらず、ギアとギアを直接噛み合わせる機構。
MTのようなダイレクトな変速感と、アクセルペダルを踏み続けていれば、疾走していく加速感。常に新しいドライブ感覚でもって私たちを驚かせてくれたのがゴルフGTIだったよなー、と私はこのギアボックスによる走りを体験して、改めて思い当たったのだった。
「GTIは誇りだった」、ザーゲ社長の記憶
ザーゲ社長が、貯金して購入したという自身の最初のパーソナルカーも、第6世代のゴルフGTIだった。「5〜6年かけて貯金し、2009年にようやく手に入れた初めての新車でした。販売店で受け取った日の感動はいまでも忘れられません」と回顧する。
白いボディの3ドア車で、「お金がなかったからオプションはなにもつけていない、とてもシンプルなクルマ」だっという。青春っぽい。
「私の年代にはとても人気のある車種なんですけども、価格もそれなりにするので、特に若いときは買えなくて中古車を買う場合が多いです」
ザーゲ社長はそう言ったあと「納車してもらった時にはもう本当に、誇りに思いました」とつけ加えた。
日本でも多くのファンを抱えるGTIの魅力
ゴルフGTIの魅力はどこにあるのだろう。ザーゲ社長は「答えはむずかしくない」とし、こう続ける。
「よく考えてつくられたもの、よく考えて世に送り出されたものって、やっぱり魅力的なんだと思います。異なる価値を高いレベルで両立していることです。スポーティでありながら実用的で、安全で、信頼性も高い。そのバランスがフォルクスワーゲンのすべてのクルマに共通しています」
日本に赴任して1年経っていない。だが、「日本の人々はクラフツマンシップや、よくデザインされ、丁寧につくられたものを本当に高く評価しています。私自身もそうした価値観に強く惹かれます」と、ものづくりの姿勢に対する共感も口にした。
VWが日本でも多くのファンを持つ。受け入れられてきた理由はすぐわかった。
「日本のお客さまは、クラフツマンシップとか、よいデザインとか、つくり込まれたものとかを高く評価しますよね」
日本各地で、名刹や古美術品に触れる機会もあり、日本独自の美意識に触れてきたザーゲ社長。日本でVWが好まれてきた背景がそこにあるのでは、と言う。
よくデザインされて、しっかりつくり込まれて、走っていて非常に安定性があり、安全性能が高く、機能的でもあり、ようするに日々の生活を豊かにしてくれる。
それが、フォルクスワーゲンが続けてきたクルマづくりなのです、とザーゲ社長。
「フォルクスワーゲンの魅力は言葉だけでは伝えられません。ドアを閉める音、素材の感触、走りの安定感。実際に体験していただくことで、その価値を感じてもらえると思います」
VWのクラフツマンシップを届けるために
VWの開発陣は、ゴルフもゴルフGTIも、ポロもティグアンもT-ロックも、さらにいえば電気自動車のID.シリーズも、全身全霊をささげるように手掛けてきた。
「そのつくり手たちが“評価してほしい”と思うところを、日本のオーナーはきちんと評価してくれているのです」とザーゲ社長は笑顔を見せる。
「日本の方々には、フォルクスワーゲン車のすばらしさをもっともっと知っていただきたい。それを伝えるのが私の仕事だと思っています」
日本ではかつて、すぐれたセンスとそれをかたちにする技量を持った、広い意味でのクラフツマンの仕事を評価し、世に広めてきた目利きとか数寄屋者とか地本問屋などと呼ばれた人がいた。
ザーゲ社長の日本での仕事は、クルマにおいて同様のことをしてくれることなのかもしれない。これからが楽しみではないか。
インタビューの最後、クルマの本質的な魅力について、こう締めくくった。
「クルマを自分の思いどおりに操り、自分がクルマの一部になったように感じられる。その感覚が、私にとって運転することの本質的な楽しさです。ほかのことを忘れ、ただ運転に集中できる時間でもあるのです」

