言葉を手で綴るという行為は、なぜいまも私たちを惹きつけるのか──
自らも愛用する「モンブラン」の万年筆を手に、俳優・杏が「手書き」ならではの魅力を語る。
パリと日本を拠点に活動し、多忙な日々を送りながら、三児の母としての顔も持つ俳優の杏さん。
彼女の日常には、常に「手書き」の時間が溶け込んでいる。お礼の手紙や子どもたちへのメッセージ、さらにはSNSに投稿するイラストまで、彼女の手から生み出される文字や絵は、受け取る人の心に温かな体温を届けている。
相手に負担を負わせない、“優しい距離感”
「手書きのほうが、私にとっては気が楽なんです。スマホのメッセージアプリだと既読マークがついたりして、早く返さなきゃとプレッシャーを感じることがあります。
でも、紙に直接書いて、切手を貼ってポストに投函する。そうすることで、手紙をもらった側も『これで完結でいいんだ』と、お互い気負わずに済むような気がしています。
特にお礼状などは、手書きのほうが本人から届いたことが確実に伝わりますし、相手に返信の負担を負わせない、優しい距離感をつくれると思うんです。
デジタルツールは便利ですが、手紙には『その瞬間に相手を思った』という、時間の切り取り方が宿る気がします」
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小学校時代の思い出は、「自分のために時間を使ってくれた」先生
効率や即時性が求められる現代において、杏さんが大切にしているのは、あえて時間をかけ、手間を惜しまないことで生まれる心の余裕だ。それは単なる手段ではなく、相手を思いやるひとつの礼儀でもある。
杏さんが“書くこと”に惹かれる背景には、小学校時代の担任の先生の存在もある。
「“えんどう豆先生”って呼ばれていた先生がいたんです。毎日日記にひと言ずつ返事を書いてくださって、そこに小さな豆のイラストが添えてあったりして。ちゃんと自分のために時間を使って言葉を書いてくれている、という感じがして、それがすごく嬉しかったんです。書くことって、ただ情報を伝えるだけじゃなくて、相手を思うことでもあるんだなって、子どもながらに感じていました。先生が使っていたブルーブラックのインクの色も、いまでも印象に残っていて。気づけば、自分で使うペンなんかも、自然とブルーブラックを選ぶようになっていました。黒よりも少し柔らかさがある感じがして、ずっと好きなんです」


右:封筒のようなフォルムのモンブランのノートホルダー。筆記具用ループやハンドルを備え、デスクから日常まで軽やかに持ち運べる。各¥91,300/すべてモンブラン(モンブランお客様サポート)
台本を読み込み、自分のものにする時は必ず手書き
書くことは、単なる情報の記録ではない。杏さんにとってそれは、自身の内面を整理し、自分という人間を形作っていくプロセスそのものなのだ。
俳優という職業柄、膨大なセリフを覚える必要がある杏さんにとって、手書きは実用的な側面でも大きな役割を果たしている。
「デジタルの恩恵はもちろん受けていますが、台本を読み込み、自分のものにする時は必ず手書きを使います。台本の余白に、その時の感情や動きを書き込んでいく。目で見て脳に届けるのと同時に、手からの刺激で脳に届ける。このふたつの回路を同時に使うほうが、私の中にはスッと入ってきやすいんです。文字を書くという動作が、記憶を定着させるフックになっているのかもしれません」
幼い頃は漫画家を夢見て、好きなキャラクターの絵を描くことに没頭していたという。その「描く」ことへの純粋な喜びは、いまも彼女の表現の根底に流れている。
「絵を描くことは、いまでも大好きです。10代の頃は、遊びとして『書き写す』ことをしていました。たとえば、辞書を適当にめくって、真っ白な紙に自分で決めたテーマのワードをどんどん書き写していくんです。『色』に関する言葉が出てきたらそれを書き、また次を探す。紙が文字で埋まっていくと、なんとも言えない達成感と気持ちよさがある。
写経に興味を持って挑戦したこともありますが、集中して書いていると、最初は書き慣れない文字がだんだん自分の手に馴染んでいく感覚があって、それがとても心地いいんです。自分を整える、一種の瞑想に近い時間なのかもしれません」
手書きの楽しさは、使う道具との対話からも生まれる。杏さんは、紙の質感やペンの滑りに対しても、職人のような繊細な感性を持っている。
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モンブランがもたらす、より深い思索の時間
「いろんな紙に書いていると、それぞれの個性に気づかされます。毛羽立ってインクをよく吸うものもあれば、表面が滑らかでペン先に力が要らないものもある。なかでも『この吸い加減は、書いていて本当に気持ちいいな』と感じる紙に出合うと、つくっている方の思いやこだわりまで伝わってくるような気がします。そうした微細な感触を楽しめるのも、手書きならではの贅沢ですよね」


右:ルノワールの色彩を纏った、イタリア製ノートブック。名画の温もりを伝える特別な一冊は、大切な方への贈り物や自分へのご褒美に。¥19,800/すべてモンブラン(モンブランお客様サポート)
モンブランの万年筆を手に取る時、その重みやペン先が紙を捉える感覚は、書くという行為をより深い思索の時間へと変えていく。
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手書きを通じて、自分自身の内面が浮かび上がる
「万年筆で書くと、自分の筆圧や角度がそのまま線に現れます。それは、その時の自分のコンディションを知ることでもある。急いでいる時は文字が踊っているし、落ち着いている時は線もどっしりしている。モンブランのような確かな道具は、そうした自分の機微を受け止めてくれる安心感があります。筆圧ひとつとっても、デジタルのフォントにはない、その人の体温が宿る。文字の太さやかすれに、感情がにじみ出るんです」
モンブランが長年培ってきたクラフツマンシップは、杏さんのように言葉を大切にする表現者の手元で、確かな「自分のかたち」を描き出すための力となる。
デジタルですべてが完結しがちな世界で、杏さんが見つめるのは、手書きを通じて浮かび上がる自分自身の内面だ。一文字ずつていねいに綴られる言葉には、その時、その場所でしか生まれない「私」が映し出されている。
モンブランお客様サポート
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