フェラーリが「ルーチェ」と名付けたピュアEVを、2026年5月25日にローマで発表した。デザインをはじめ、注目度の高いモデルだ。

内外装とインターフェイスのデザインを担当したのは、Appleで最高デザイン責任者を務めたジョナサン・アイブとマーク・ニューソンがひきいる「ラブフロム(LoveFrom,)」。
ルーチェのプロジェクトが発表されたのは、2025年10月で、そのあと、ダッシュボードのデザインが公開された際、ラブフロムの名が出て、驚かされた記憶がある。

なにしろ、フェラーリにとって、外部のデザインファームの名を公にするのは、たいへん珍しい。
長い間、ピニンファリーナとベルトーネにボディを任せてきたものの、2012年のF12ベルリネッタを最後に、自社内デザインに切り替えている。
インハウスのデザインは、いまの自動車界の主流だ。理由は「一貫したデザイン言語のコントロールが用意になるため」と、かつてフェラーリのデザイナーが私に語ったこともある。
もちろん、そうは言いつつ、多くのメーカーが、デザインのアウトラインを外注しているのは事実。大抵そのことは秘されている。
フェラーリの伝統からかけ離れたデザイン

ルーチェを見ると、なるほど、ラブフロムの作品のようだ。これまで女性のからだのラインがデザインソースと公言してきたフェラーリの“伝統”とはかけ離れている。
ラブフロムの、とくにマーク・ニューソンのテイストが強く感じられるのは、デザインの近似性を感じさせるモデルが過去に存在するからだ。
ニューソンがフォードの依頼で手がけ、1999年の東京モーターショーで公開された、いわゆるデザインスタディの021C。

基本的にプロダクトデザイナーのニューソンであるが、逆に、”クルマらしくない”クルマとして、021Cは秀逸といえる作品だった。
明晰で一貫したビジョン
「優れたデザインの要件とはーー」
ニューソンは25日にインスタグラムで、ルーチェのデザインについてみずからの言葉で書き記している。
「明晰で一貫したビジョンを持っていることです。ルーチェはその考えかたを究極まで推し進めたもの。インテリアとエクステリアともに、フォルムと機能性を、シームレスにつなげました」

フェラーリらしくないのではないか、という声もささやかれるルーチェ。もちろん、ある意味でそれは的を射ている。
なぜなら、ピュアEVであり、4輪を1基ずつモーターで駆動し、4ドアの5人乗りのパッケージを持つなんて、フェラーリではこれまで存在しなかったモデルだ。

ふんだんに盛り込まれた新技術
「企業のリーダーシップが表れるのは、あえて挑戦し、新技術に立ち向かう勇気を示したときだと私たちは確信しています」
プレスリリースでは、ベネデット・ヴィーニャCEOの言葉が紹介されている。
ルーチェには、新しい技術がふんだんに盛り込まれている。
「唯一無二のドライビングの興奮と、驚異的な性能、ドライビングプレジャー、快適性を備えた、今日と明日のフェラーリスタのためのモデル」とは、やはり、ヴィーニャCEOの言。

電動4輪駆動システムはBEVならでは。メリットは大きい。4輪の駆動トルクを緻密にコントロールできるからだ。高い次元での操縦性と加速性がともに得られるとされる。
シャシーは、ルーチェのために専用開発。バッテリーを構造材の一部として使う設計だ。
シャシーは中空鋳造や押出材を使い、軽量化できる部分にはアルミニウムをふんだんに使用。
走行性能アップのために、アクティブサスペンションと、後輪操舵システムが組み合わされる。

コントロールできる駆動トルク
BEVとしてルーチェが凝っているのは、ドライバーが任意で駆動トルクをコントロールできる機構にある。
ステアリングホイールのコラムから生えたパドル操作によって、発進時と加速時、ともにトルクが好みで調節できるのだ。

大トルクのBEVでは、加速ペダルを強めに踏み込んだ場合、強烈な発進トルクが発生する。
「発進時には不快にさえ感じられます」と、それについて、フェラーリは批判的に前置き。
「強烈な縦加速が瞬時に生じるという電動パワートレイン特有の課題」(フェラーリ)の解決が、ルーチェにおけるひとつのテーマだったそう。
そこでドライバーが意識的にパドルを使って駆動トルクをコントロール。強弱を好みで調節できる。
途切れない加速感と空力
もうひとつ、メリットがある。パドル操作によって、ある程度の速度が出てからも、途切れない加速感が得られるというのだ。

昨今のスーパースポーツカーは、空力のコントロールが大きなテーマ。デザイナーもそれを意識せざるをえないのも事実だ。
ルーチェでは、アクティブエアログリルなる機構で、流入する空気の流れを調整。さらにアクティブサスペンションによって、高速になると車高が下がって、空気抵抗を減らす。
消費電力、バッテリーのプリコンディショニング(効率よく働かせるための温度管理)、急速充電、それに冷却システムなどをソフトウェアで制御。目的は、航続距離を伸ばすためだという。

フェラーリが狙う大きな飛躍
「大きな飛躍を遂げる製品の革新」とルーチェについて語るのは、フェラーリの総帥ともいえるジョン・エルカン会長だ。
「だからこそ私たちは、ラブフロムとの協力のように、新たなコラボレーションに踏み出すことを選んだのです」

優れたデザインには“慣れ”が必要だという意見もある。クルマでいうと、1955年のシトロエンDSなどがいい例だろう。その点、ルーチェはどうだろう。
「フェラーリらしくない」という意見を持つ人は、時間の経過が印象にどんな作用を及ぼすか。それを楽しみにしてはいかがだろうか。
Ferrari Luce
全長×全幅×全高:5026×1999×1544mm
ホイールベース:2961mm
車重:2260kg
バッテリー駆動 全輪駆動(各輪にモーター)
最高出力:772kW
最大トルク:990Nm
バッテリー容量:122kWh
乗車定員:5名
0-100kph加速:2.5秒
一充電走行距離:530km(WLTP)
価格:55万ユーロ〜(欧州)
www.ferrari.com/ja-JP












